インサイド商標審取
平成23年(行ケ)第10323号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は無効服審判不成立審決について取消しを求めるものです。
主たる争点は、商標法4条1項15号の該当性です。
裁判所の判断は14ページ以下
1 一般論
本判決は、まず、「商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信される広義の混同を生ずるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)」との一般論を展開しました。
2 本件意匠の構成
本判決は、次に、本件意匠の構成について、「本件商標は,別紙本件商標目録のとおり,黒地の正方形の下に黒白の横縞で表示した正方形を右上方に少しずらして重ね合わせた図形と,当該黒地の正方形内に白抜きで上から「KDDI」,「Module」及び「Inside」の欧文字を上下三段に配し, 「Inside」の文字を他の文字に比してやや大きく表示した構成からなる。 前記(1)アの事実によれば,本件商標中の「KDDI」との文字は,携帯電話事業等を行う被告を表示するものとして,本件商標の登録出願前には,本件指定商品の取引者及び需要者の間だけでなく,一般需要者の間においても,既に著名なものとなっていたといえるから,それ自体が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。他方,「Module」の文字は,「装置,機械,システムを構成する部分で,機能的にまとまった部分」(新村出編「広辞苑」第六版)を意味し,また,「Inside」の文字は,「内側の,内部の」等の意味を有する語であるから(甲78),「Module」の文字及び「inside」の文字は,自他商品の識別のために格別の意義を有するものとはいえない。そうすると,本件商標からは,構成文字全体に相応して生ずる「ケイディディアイモジュールインサイド」との称呼のほかに,「ケイディディアイ」との称呼も生じ,著名な企業である「KDDI 株式会社」あるいは「KDDI 株式会社が製造した装置が内蔵されたもの」との観念が生ずる。 さらに,「INSIDE」の文字が他の文字に比してやや大きく表示されていることからして,「インサイド」との称呼も生じ得るものといわなければならないが,その称呼だけでは,単に「内側の,内部の」との意味を想起させるにとどまり,それ以上に,何か具体的な観念を生じさせるものではない」と述べました。
3 引用商標の構成
他方、本判決は、引用商標の構成について、「引用商標1は,別紙引用商標目録記載1のとおり,上部中央やや右側の部分がすれ違っている太さの異なる楕円状の円形内に,「intel」の欧文字を上段に, 「inside」の欧文字を下段に配し,各文字がやや右上がりに記載された構成からなるものである(甲2の1)。 「intel」の文字と「inside」の文字は,楕円状の円形内に一体的にまとまりよく配置されている上,前記(1)イの事実によれば,本件商標の登録出願当時, 「intel」の文字と「inside」の文字を結合した「intel inside」は,原告製造に係る製品を表示するものとして,広く認識されていたものといえるから,引用商標1からは,構成文字全体に相応した「インテルインサイド」との称呼が生じる。また,前記(1)イの事実によれば,「intel」の文字は,本件商標の登録出願前から世界的な半導体メーカーである原告を表示するものとして,広く認識されていたものといえるから,それ自体が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり,引用商標1からは「インテル」との称呼も生ずる。 さらに,「インサイド」との称呼が生ずるかというと,「inside」の文字は, 「intel」の文字に1文字分の空間を挟んで連続して記載されている上,「intel」の文字に比較して,その形状・大きさ等に違いはなく,上記のとおり,「intel」の文字が「内側の,内部の」等の意味を有する語にすぎないことに鑑みると,この文字自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものとはいえないから, 「インサイド」との称呼が生ずるとまではいえない。 以上のとおり,引用商標1からは,「インテル」又は「インテルインサイド」と
の称呼が生じ,半導体メーカーである「インテル・コーポレーション」あるいは
「インテル・コーポレーションが製造した商品が内蔵されたもの」との観念が生ず
るものというべきである」などと述べました。
4 類似の有無
以上を前提として、本判決は、「本件商標と引用各商標とは,「INSIDE」(引用商標1及び2においては,「I」が小文字の「inside」である。)という文字を構成の一部に有していることは共通しているものの,その外観は全体として類似するものではなく,称呼,観念も相違するから,両者は類似しない商標であるといわなければならない」との判断を示しました。
5 混同のおそれ
さらに、本判決は、「本件商標と引用各商標とは,いずれも「INSIDE」(引用商標1及び2においては「inside」)との文字をその構成の一部に含むものであるが,その外観は全体として類似するものではなく,称呼,観念も相違する。また,引用各商標中の「intel」の文字や「intel inside」の文字は,原告又は原告製造に係る製品の表示として広く認識されているものの,「・・・inside」又は「・・・INSIDE」という表示形式が,当該商標が使用された商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するおそれを生じさせるほどの強い出所識別機能を有しているとまではいえず,引用各商標の構成自体が格別独創性の高いものということもできない。そして,本件商標中の「KDDI」の文字も,被告を表示するものとして我が国において高度の周知性を有していることを併せ考慮すると,本件指定商品と引用各商標の指定商品とに重複するものがあり,そのため,両者の取引者及び需要者が共通することを考慮しても,本件商標がこれに接した取引者及び需要者に対し引用各商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものということはできないし,本件商標が引用各商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招く結果を生ずるおそれがあるとまでいうこともできない。そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」には該当しないと判断するのが相当である」と判断しました。
本判決は、一事例として参考になると思われます。
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