4 機能クレーム
機能クレームとは、特許請求の範囲の記載において「…するための手段」というように「機能及び手段」を示す形式で記載されているものをいう。特にソフトウェア発明で採用されている形式である。
機能クレームについては、米国特許法は特別の規定を有しており、同法112条3項は「結合の発明のクレーム中の要件は、それを支持する構造、材料または動作を詳しく記述することなく、特定の機能を達成する手段または工程として表現することができる。このようなクレームは、明細書に記載された対応する構造、材料または動作及びその均等物を保護するものとして解釈される」と定めている。これに対して、日本法上は特別の規定はなく、通常のクレーム解釈の手法に従って解釈すれば足りると解する。もちろん、通常のクレーム解釈を施した結果として、「明細書に記載された対応する構造、材料または動作及びその均等物を保護するもの」として解釈されることは十分あり得る。
5 クローズド・クレーム
対象製品がクレームに属するか否かは、対象製品がクレームされている構成要件の全てを備えているか否かにより決定されてるものであり、それ以外の要素は考慮されないのが原則である(間接侵害と均等侵害は侵害の範囲を拡張する方向での例外である)。従って、対象製品がクレームに記載されていない技術要素を備えている場合であっても、対象製品がクレームされている構成要件の全てを備えている以上、対象製品はクレームに該当するとの判断がなされる。この場合、対象製品が備えているクレームに記載されていない技術要素のことを「付加的構成」ということがある。
もっとも、クレームの解釈如何によっては、対象製品に全て又は特定の技術要素が付加された場合には、当該製品はクレームの範囲外になると判断される場合がある。例えば、クレームの記載方法として、対象物が「AとBのみから成る化合物」の場合には、当該化合物は文言上クレームに属さないことになる(間接侵害と均等侵害の正否は別論である)。かかるクレームをクローズド・クレームということがある。
さらに、クレーム上は、「AとBから成る化合物」を記載されており、「のみ」という文言が明示されていない場合であっても、明細書の記載を参酌して、クレームを解釈した結果、対象製品に全て又は特定の技術要素が付加された場合には、当該製品はクレームの範囲外になると判断されることもある。この例として、平成14年(ワ)第25696号 特許権侵害差止請求事件がある。同判決は、クレームの「液晶組成物」にエステル基(-COO-)含有化合物を含む液晶組成物が含まれるかという論点について、「本件明細書の【特許請求の範囲】中の【請求項1】の記載によれば,構成要件Dにおける「液晶組成物」は,「一般式(Ⅰ)で表される非カイラル化合物」と,「一般式(Ⅱ)または一般式(Ⅲ)で表されるカイラル化合物とからなる・・・アクティブマトリックス用ネマチック液晶組成物」とされている。 そして,本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の一般式(Ⅰ)で表される非カイラル化合物については,別紙2のとおり,「・・・X,YおよびZはそれぞれ独立に単結合,-CH2-CH2-,-OCH2-または-CH2 O-を示し,R1およびR2は,それぞれ独立に,H,CnH2n+1-,CnH2n+1O-もしくCnH2n+1-O-CkH2k-(ただし,nおよびkはそれぞれ独立に1ないし18の整数である),またはCnH2n-1-,CnH2n-1O-,CnH2n-1-O-CkH2k-,CnH2n-3-,CnH2n-3O-もしくはCnH2n-3-O-CkH2k(ただし,kは上記と同じ,nは2ないし18の整数である)を示し,(n+k)≦18であり,該式における少なくとも一つのH原子はF原子で置換されていてもよい。」と記載されており,上記一般式(Ⅰ)におけるX,Y,Z,R1,R2の選
択肢からすると,本件非カイラル化合物にはエステル基は含まれないと解される。
したがって,本件特許発明の特許請求の範囲における液晶組成物のうち,一般式(Ⅰ)に記載の非カイラル化合物に,エステル基含有化合物が含まれないことは,明らかである」と判断している。
いずれによせ、この問題も、機能クレームと同様に、クレームの解釈の一般論を事案に適用して解決すれば足りるのであり、特別な理論は必要がない。
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