1 平成24年(行ケ)第10187号 審決取消請求事件
2 本件は、原告が,原告の後記1の本件商標に係る商標登録に対する商標法51条1項に基づく取消しを求める被告の後記2の本件審判請求不成立審決の取消しを求める事案である。
3 本件の争点は、商標法51条1項の該当性です。
4
4-1 本判決は、まず、商標法51条1項の一般論として、同項は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和58年(行ツ)第31号同61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁参照)と述べた上、商標法51条1項の上記のような趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用・・・であって・・・他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要であるというべきであり, そして,その混同を生ずるおそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の有無,程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質, 用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである」と述べました。
4-2
続いて、本判決は、本件商標と使用商標の類似性について、「(1) 本件商標について 本件商標は,別紙本件商標目録のとおり,「MultiProGreens」の欧文字と「マルチプログリーン」の片仮名文字を上下2段に横書にした構成からなる。本件商標からは,上記各文字の構成全体に応じて,「マルチプログリーンズ」又は「マルチログリーン」との称呼が生ずる。 (2) 使用商標について 使用商標は,別紙使用商標目録のとおり,「ProGreens」の欧文字を横書にし, その左上に「multi」との欧文字を白抜きで横書にして配置した構成からなる。使用商標からは,後記3ウ(ア)のとおり,「ProGreens」の文字部分から「プログリーンズ」との称呼が生ずるほか,構成文字全体に応じた「マルチプログリーンズ」との称呼が生ずる」と述べた上で、「本件商標と使用商標とは,その構成中に「Multi」又は「multi」との欧文字や「ProGreens」との欧文字を含んでいる点で共通性を有しているものの,各文字の配置や,本件商標の構成中には,使用商標にはない「マルチプログリーン」との片仮名文字も含まれているという点で相違しているから,両者は,全体としてその外観そのものが顕著に類似するものではない」とし、さらに、「本件商標を構成する「Multi」や使用商標を構成する「multi」との語も, 「多くの」,「種々の」等の意味を有するものであるにすぎないし(研究社「NEW COLLEGIATE 英和辞典」第5版),「ProGreens」や「プログリーン」は,いずれも造語であるから(弁論の全趣旨),本件商標と使用商標とは,いずれも特定の観念を生ずるものではない」と認定し、「1個の商標から2個以上の称呼,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきであるところ(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照),使用商標からは,「プログリーンズ」との称呼が生ずるほか,構成文字全体に応じた「マルチプログリーンズ」との称呼も生じ,本件商標から生じる称呼の1つである「マルチプログリーンズ」と称呼が同一である以上,使用商標は,本件商標と類似するものというべきである」と結論づけました。
4-4
本判決は、さらに、混同のおそれについて、一般論として、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも, 許されるものである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号50 09頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)」と述べた上、「「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比べて,構成文字が多く,その文字の幅も約5倍程度になっていること,「multi」の文字は白抜きで表記されているのに対し,「ProGreens」の文字は,白抜きでない通常の文字で表記されていることなどからすると,外観上,「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比して,見る者の注意をより強く引くものであるということができる。また,前記のとおり,「multi」との語は,「多くの」,「種々の」等の意味を有するものであり,「multi」との語自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものではない」ことを根拠とし、「使用商標のうち「ProGreens」との文字部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,当該文字部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである」とし、「使用商標からは,その構成全体である「multi ProGreens」だけでなく,「ProGreens」との文字部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきであると判断しました。
4-2 また、本判決は、使用商標と引用商標1との類似性の程度について、「使用商標の「ProGreens」の文字部分と引用商標1については,引用商標1ではその構成文字が全て大文字であるのに対し,使用商標の「ProGreens」の文字部分では「P」と「G」以外が小文字であるという差異と,使用商標の「ProGreens」の文字部分の末尾には「s」の文字があるが,引用商標1の末尾には「s」がないという差異があるにすぎず,当該「s」を除いた8文字からなる構成文字の綴りは同一のものである。したがって,使用商標と引用商標1は,外観上類似するというべきである。 また,使用商標からは「プログリーンズ」との称呼が,引用商標1からは「プログリーン」との称呼がそれぞれ生じ,両者は,語尾に「ズ」が付くか否かの差異があるものの,これを除く「プログリーン」の6音は共通しているから,称呼においても類似するものである。そして, 使用商標を構成する「ProGreens 」と引用商標1 を構成する「PROGREEN」はいずれも造語であり,特定の観念を生ずるものではない」と述べ、「使用商標と引用商標1は,類似の商標であるということができる」と判断しました。
4-3
加えて、本判決は、使用商標が付された商品と被告の業務に係る商品等との間の性質等における関連性の程度について、「使用商標が使用された商品は,大豆レシチン,スピルリナ,リンゴペクチンと繊維,亜麻仁粉,オリゴ糖,大麦ジュース粉末,オート麦ジュース粉末,小麦ジュース粉末,小麦の芽の粉末,アルファルファジュース粉末,クロレラ等を原料とするものであり(甲15,16),本件指定商品と実質的に同一のものである。他方,引用商標は,前記のとおり,大麦若葉を搾汁し,繊維を取り除いた後,エキスを低温で乾燥させ,粉末化したという被告製品に使用されている。 そうすると,使用商標が付された商品と被告の業務に係る商品は,いずれも健康食品と呼ばれている分野の商品であるという点で共通性を有するものである」と判断し、さらに、商品等の取引者及び需要者の共通性等について、「 被告製品は,AGA加盟の薬局・薬店において,対面販売されているが(甲4, 甲9の1・2,甲10の3・4・6~8・10~36・38),使用商標を付した原告の商品は,インターネットを通じて一般の需要者に販売されている(甲15)」と判断しました。
4-4
続いて、本判決は、引用商標の周知著名性及び独創性の程度について、「引用商標は,いずれも特定の観念を生じさせることのない造語であるが,引用商標1は「PROGREEN」との欧文字のみで構成され,引用商標2も「プログリーン」との片仮名文字のみで構成されるものであって,いずれも商標の構成としてはさしたる独創性を有するものではない」とし、さらに、周知著名性について 「引用商標は,青汁等の健康食品の取引者,需要者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる」と認定しました。
4-5
本判決は、以上を前提として、「使用商標と引用商標は類似の商標であり,これらの商標が使用される商品も共通性を有するものである。また,引用商標は,独創性が高いものではなく,原告がその商品に使用商標を使用した平成20年頃には,いわゆる健康食品の需要者,取引者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる。そして,被告製品が薬局・薬店において対面販売されているのに対し,使用商標を付した原告の商品は,インターネットを通じて販売されるものであって,両者は販売態様,方法を異にしているから,そうした販売の実情に通じた薬局・薬店等の取引者であれば,使用商標が本件指定商品について使用されていたとしても,それが被告の業務に係る商品であるとの誤認, 混同を生ずるおそれが高いとまではいえないものの,使用商標を付した原告の商品はインターネットを通じて一般の需要者に対して直接販売されるものであり,引用商標の存在については認識しているが,上記のような販売の実情に通じていない一般の需要者にあっては,上記検討した使用商標と引用商標との類似性に照らして, インターネット上で接した原告の商品について,被告の業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずる具体的なおそれがあるものといわなければならない」と結論づけた上、原告の故意について、「原告は,平成19年4月17日,被告から,「multi Progreens」との商標が引用商標に係る被告の商標権を侵害するとの通知を受けていながら,その後である平成20年11月頃に,使用商標を用いた商品の宣伝を行っているのであるから,少なくとも,その宣伝行為に当たっては,使用商標を使用した結果,被告の業務に係る商品との誤認,混同を生じさせるおそれのあることを認識し,かつこれを認容していたものと認めるのが相当である」と判断しました。
5 本判決は、商標法51条1項の該当性が問題となって貴重な事例として参考になると思われます。
以上
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