ウインドパワー審取
平成22年(行ケ)第10407号 審決取消訴訟
本件は拒絶査定不服審判に対して取消を求めるものです。
争点は容易想到性の有無です。
裁判所の判断は16ページ以下。
本判決は、まず、引用発明の認定について、「引用例1には,「複数の風力発電設備を備えた風力発電施設であって,上記風力発電施設に接続されている送電網に,発生した電力を供給する風力発電施設の運転方法は,上記風力発電施設により供給される電力をそれぞれの風力発電設備のデータ入力に接続されたデータ処理装置で制御可能として,全ての風力発電設備の出力電力を上記データ処理装置で定格出力電力の0から100%の範囲内
で調節することができると共に,風力発電施設が送電網の最大許容送電量よりも高
い全出力電力を出せるようにしたうえで,送電網の電圧に応じて風力発電施設全体
の出力電力が送電網の最大許容送電量となるように調整するステップからなる運転
方法。」との技術が開示されているといえるが(下線部分は,審決における引用発明
の内容の認定と異なる部分である。),「送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出
力電力を(その定格出力電力の)0から100%の範囲内の所望値に設定する」と
の技術は,開示されていない」と判断し、被告の「風力発電施設全体の定格出力電力は,個々の風力発電設備の定格出力電力の総和であるから,引用例1には,風力発電施設全体の制御として,「許容最大供給電力を供給し続ける」ことに加えて,「送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を(その定格出力電力の)0から100%の範囲内の所望値に設定する」ことも実質的に開示されている」との主張に対して、「引用例1で開示された発明において,個々の風力発電設備をその定格出力電力の0から100%の範囲内で調整する目的は,送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を送電網の最大許容送電量とするためであって,風力発電施設全体の出力電力を送電網の最大許容送電量よりも小さくするためではない。また,引用例1で開示された発明では,個々の風力発電設備の定格出力電力を合計した風力発電施設の最大出力電力は,送電網の最大許容送電量よりも大きいことから,風力発電施設全体の出力電力を定格出力電力の100%と設定すると,送電網の最大許容送電量を超過することになり,このように送電網の最大許容送電量を超えた出力電力となるように設定することも想定されていない。したがって,引用例1に,「送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を(その定格出力電力の)0から100%の範囲内の所望値に設定する」ことが実質的に開示されているとはいえない」と判断しました。
本判決は、次に、容易想到性について、「本願発明は,相違点2に係る構成を採用することにより,ウインドパークの電力網の周波数や電圧の変化を回避するとの効果を実現する発明である。 前記のとおり,引用発明は,風力発電施設の全出力電力を送電網の最大許容送電量とするために,風力発電施設が送電網の最大許容送電量よりも高い全出力電力が出せるようにした上で,個々の風力発電設備の出力電力を定格出力電力の0から100%の範囲内で調整するという構成を備えた風力発電施設の運転方法である。引用発明の解決課題は,従来,全ての風力発電設備から常に定格出力電力が得られるとは限らず,風力発電施設全体の最大電力出力を連続して出すことができなかった風力発電施設において,常に送電網の最大許容送電量を出力できるようにして,送電網の送電網構成部品が最適化された態様で利用できるようにすることである」から、「引用発明と本願発明とは,解決課題において,相違する」と述べた上、「引用発明では,常に送電網の最大許容送電量を出力できるようにしたものであるのに対し,本願発明では,電力網の周波数や電圧が基準値より高いか又は低いときに,ウインドパークの供給電力を低減する,すなわち,ウインドパークの供給電力を,送電網の最大許容送電量との関係によらず,電力網の周波数や電圧により制御するものである点において,両者は,課題解決手段において相違する」と述べて、結論として、「本願発明の課題解決手段は,引用発明の課題解決手段を採用することに対する妨げになるから,引用発明に相違点2に係る構成を組み合わせることには,阻害要因がある」上、「引用例2に開示された技術は,望ましくない電圧変動を防止するために,配電網の電圧が基準値よりも変動した場合に,供給電力を低減するものであり,引用例3に開示された技術は,発電機の系統電圧の変動を防止するために,電力網に供給される電流と電圧の間の位相差を,上記電力網の電圧に依存して変更するものである。したがって,いずれも引用発明とは解決課題が異なり,引用発明に接した当業者が,引用例2及び3に開示された技術を組み合わせる動機付けが存在するとはいえない」ため、「引用発明に接した当業者が,本願発明における相違点2に係る構成に容易に想到し得たとは認められない」と判断しました。
本判決は、本願発明と引用発明とのの組み合わせに阻害要因があるとの判断の後、両者の解決課題の相違を理由として、動機付けがないと判断したものです。この判断の順序については、動機付けがあれば原則容易想到性が肯定されるが、阻害要因がある場合には容易想到性が否定されるというようなリニア思考を採用すれば理解しがたいものとなりますが、、容易想到性の判断について、「動機付け」というカテゴリの「基礎付け事実」と阻害要因というカテゴリーの「障害事実」を総合して判断される規範的要件であると理解するならば、納得できるものです。
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