知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

エアゾール容器用キャップ

2012-03-23 13:53:58 | 最新知財裁判例

エアゾール容器用キャップ
平成23年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件(特許)
請求棄却
本件は、無効審判不成立審決の取消訴訟であり、争点は,進歩性の有無です。
裁判所の判断は22ページ以下
以下、相違点1に関する判断の誤りに焦点を当てます。
1 相違点1の認定
本判決は、「審決の相違点1の認定には誤りはない」としつつ、「念のため,原告が主張する本件訂正発明1と甲1発明との相違点の新たな主張について検討する」と述べて、これを否定しました。
2 相違点1に関する判断の誤り
2-1 本判決は、まず、「原告は,甲1発明においては,技術的には弾性支持部は中間段部12aの部分の傾斜角度が変化することによって対応せしめられていることが明らかであるから,甲1発明における目的(突出長さが異なったステム30に対応するという目的)を達するためには,中間段部12aの部分を弾性支持部材で構成すれば足りるところ,中間段部12aの部分を弾性支持部材で構成することは中間段部12aに相当する部分に
スリットsを設けるということになるが,中間段部12aに相当する部分は本件訂正発明1の大径部の周壁部分に該当するから,審決がいう阻害要因は存在しないと主張する。
しかし,そもそも「周壁」とは「まわりの壁」という意味であって, 「壁」の基本的意味は「家の四方を囲い、または室と室の隔てとするもの。」(広辞苑第四版(乙4))であるから,「側面の壁」(垂直方向の面)を意味するものである。そして,本件訂正明細書にも「周壁」の意味についてことさら上記の通常の意味と異なる定義がされていると
は認められない。そうすると,本件訂正発明1における「大径凹部の周壁」は中間段部のような水平方向の面を含まないというべきであるから,本件訂正発明1において「周壁」とは大径凹部の側壁を指すというべきである」として、「「中間段部12a」が「大径凹部の周壁」に含まれることを前提とした原告の上記主張はその前提において誤りであり,採用することができない」と判断しました。
2-2 本判決は、さらに、原告は,「いわゆるガス抜きの際のガスの噴射の勢いを弱くすることができ,またガス抜きのための着脱操作が容易なエアゾール容器用キャップを提供すること」(甲3の段落【0008】)が甲1発明の「基本的課題」であり,「ステム保持部3からのステム2の突出長さLは,必ずしも一定ではなく,たとえば図8のAないしLに示すように大きくばらついていたこの種のエアゾール容器において,ガスが勢いよく噴出して周囲を汚すおそれがなく,すべてのエアゾール容器のガス抜きを行うことができる,ガス抜き具を兼ねるエアゾール容器用キャップを提供すること」が甲1発明の「付加的課題」であるとして,ステム突出長さが単一の長さのキャップの場合,つまり,本件訂正発明1の課題(甲1発明の基本的課題)を解決するための手段を想起するに当たっ
て,甲1発明の付加的課題を解決するための手段である「ステム突き当て部を弾性支持部を介して支持してなる(構成)」が「貫通孔(スリットs)の位置を,大径凹部の周壁部分のみとすること」の阻害要因となるものではない」との主張に対し、「甲1発明は,ステムを押し下げ
てエアゾール容器内のガス抜きを行うキャップに関し,この種のキャップでは,従来から,ステム嵌入穴の底部をステム突き当て部とし,その周囲にガス排出口を設けて,ガス抜き時にステムから噴出するガスをガス排出口から周方向外部に排出する構成が知られていたところ,エアゾール容器の種類によってステムの突出長さLにばらつきがあるため,ステムの突出長さLが小さい場合にはステムの押し込みが不足してガス抜きを行うことができず,逆にステムの突出長さLが大きい場合にはステムの過度な押し込みでガスが勢いよく噴出して周囲を汚すという問題があったので,これを解決するために,ステム突き当て部から放射状にのばして弾性支持部を設けることによって,ステムの突出長さが大き
いときは,ステムを押し込むとき弾性支持部をたわませてその押し込みを緩衝するから,ステムからガスが勢いよく噴出することなく,突出長さがばらつく全てのステムに対応して全てのエアゾール容器のガス抜きを行うことができるようにするための発明であって,原告の主張する「付加的課題」こそがまさに甲1発明の課題であると認められるから,
甲1発明に接した当業者は,まず甲1発明の課題を認識し,そのことから,スリットsが「小径部から中間段部12aにかけてのびる」ように設けられることが甲1発明の必須の構成であると理解するものと認められる。 したがって,甲1発明に接した当業者が,甲1発明の内容を原告の主張する「基本的課題」と「付加的課題」とに分離し,そこから
「付加的課題」をことさら捨象して「基本的課題」のみを抽出し,それを前提として,甲1発明から,本件訂正発明1の構成要件であるところの貫通孔が「大径凹部の周壁部分のみに」形成されるとの構成を容易に想到し得るということはできないのであって,原告の上記主張はいわゆる後知恵といわざるを得ず,採用することができない」と判断しました。
本判決は、後知恵と判断される一事例を示したものとして参考になります。


コメントを投稿