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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

プラズマ処理装置審取

2012-03-26 09:51:46 | 最新知財裁判例

プラズマ処理装置審取

平成23年(行ケ)第10200号 審決取消請求事件

請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決について取消しを求めるものです。
争点は、進歩性の有無です。
裁判所の判断は10ページ以下
1刊行物1発明の認定について
本判決は、刊行物1の記載を引用した上、「刊行物1は,プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置一般に関する文献であって,プラズマ処理装置一般においてみられ,各種の問題を引き起こすパーティクル(微粒子)の発生を抑制することをその技術的課題とすることが明らかであって,プラズマ処理装置のうちプラズマを利用して基板表面にエッチング(食刻)処理を施すプラズマエッチング装置もその対象となるもの」であり、「刊行物1には「・・・サセプタ22と,・・・ガス供給部4と,・・・高周波電力印加手段とを備え,前記高周波電力印加手段は, 最初に,プラズマ生成に必要最低限の放電開始電力を前記ガスに供給し最小限プラズマを生成し,その後前記放電電力を増加し前記部材のプラズマエッチング処理に必要なプラズマを生成する高い高周波電力を印加するように,制御されるプラズマエッチング装置。」の発明が記載されているとした審決の認定に誤りはない」と判断しました。
また、本判決は、原告の「プラズマCVD装置とプラズマエッチング装置とでは,その機能も技術的課題も大きく異なるし,プラズマエッチング装置では,プラズマ中の原料
ガス(エッチングガス)の気相反応によって微粒子が発生することはないから,微
粒子の発生の抑制のための構成を採用する必要がないのであって,刊行物1発明は
実質的にプラズマCVD装置を対象とし,プラズマエッチング装置を対象としない
など」の主張に対し、「刊行物1発明は,エッチングガスをプラズマ状態にした際に生じたプラズマ中のパーティクルが直接基板表面に付着して不都合を引き起こす事態のみを想定しているものではなく,プラズマエッチングの過程で何らかの原因でパーティクルがいったん真空容器内部に付着し,後に真空容器内部(内壁面)から剥離(剥落)して基板表面に付着し,不都合を引き起こす事態も想定している(なお,前記のとおり,プラズマエッチング装置においても気相反応によってパーティクルが形成されるとの記載があるのは,刊行物1ではプラズマCVD装置についても合わせて記載されているため,プラズマCVD装置に係る記載に引きずられたものにすぎない。)」と述べた上、半導体プロセス技術についての一般的な文献である丹呉浩侑編「半導体プロセス技術」の記載を引用し、「本件出願当時(平成15年10月8日),プラズマエッチング装置においても,エッチングガスと被エッチング物とが反応して生ずる生成物が真空容器内部(内壁面)に付着し,その後これが剥離してパーティクルを生じ,このパーティクルが基板表面を汚染して不都合を引き起こすことは,当業者に周知の事項にすぎなかったということができる。そうすると,刊行物1の記載は,かかる周知事項を踏まえてなされたもので,エッチングガスと被エッチング物とが反応して生ずる生成物に起因するパーティクルが考慮されているということができる。 」と判断しました。
2 容易想到性の判断について 
2-1 相違点1について
本判決は、「真空容器の両電極間に対する高周波電力(高周波電圧)の印加を開始し,プラズマ生成を開始したときに,真空容器の内壁等(内部)に付着した反応生成物が剥離してパーティクルを生じ,基板を汚染するおそれがあることは, 本件出願当時において,当業者に周知の事項にすぎず,またかかるプラズマ生成開始時のパーティクルの発生の抑止ないし発生したパーティクルからの基板の汚染の防止は,当業者に共通する技術的課題にすぎなかった」と認定した上で、「刊行物1発明は,「放電電力印加開始時に投入する電力を,前記目的とする処理に要求される放電電力より低い放電電力とし,該低放電電力を一定時間印加したのち,次第に前記要求される放電電力印加へ切り換えていくこと」(段落【0016】,より詳しくは,「電力印加開始にあたって,先ず,望ましくはプラズマ生成に必要最低限の放電開始電圧を印加し,そのあと,次第に成膜に要求される放電電力へ増加させる」(段落【0024】)ことによって,「電力の多くがパーティクル発
生,成長に費やされ,多量のパーティクルが生成するという事態を避けることがで
きる」(段落【0024】)ようにするものである。そうすると,刊行物1発明は,
上記の当業者に周知の事項に従い,また上記の当業者に周知の技術的課題を解決す
るべく,真空容器の両電極間に対する高周波電力(高周波電圧)の印加を開始し,
プラズマ生成を開始したときに,真空容器の内壁等(内部)から剥離して生じるパ
ーティクルを抑制するべく,上記開始時に真空容器の両電極間に印加する高周波電
圧(高周波電力)の大きさを必要最小限度とするものであるということができる。
したがって,相違点1は実質的なものではなく,その旨をいう審決の判断に誤り
はない」と判断しました。
2-2 相違点2について
本判決は、本件出願当時,真空容器の両電極間に高周波電力(高周波電圧)を印加して生じるプラズマの電極側端部付近(電極近傍)では,電子密度が低く,陽イオン密度が高く,プラズマの端部から電極に向かって電位の勾配がある領域であるイオンシースが形成されるところ(例えば,下記特開2000-286249号公報(甲12)の図8の右側を参照。),上記高周波電力の電圧が十分に高いとき(一定以上の大きさであるとき)にはこのイオンシースでパーティクルがトラップ(捕捉。イオンシース内でパーティクルが浮遊するだけで,イオンシース外に逸脱できない現象。)されて,一方の電極の上に置かれた基板に接近できないが,他方上記高周波電力の電圧が小さくなるとパーティクルが上記トラップから逃れて基板に落下,付着してこれを汚染することがあることは,当業者に周知の技術的事項にすぎなかった」と延べ、また、「前記イオンシースにおける電位差が真空容器の両電極間に印加される高周波電力の電圧の大きさに依存して増減し,一定以上の大きさの電圧の高周波電力を上記両電極間に印加することにより,一定以上の電位差を有するイオンシースが電極近傍に生じることも,本件出願当時の当業者に周知の技術的事項にすぎなかったということができる」と述べた上、「審決が説示するとおり(9頁),本件出願当時,刊行物1発明に上記
各周知事項を適用することにより,「刊行物1発明の目的がパーティクルの発生を抑制することであることを考慮すれば,刊行物1発明において,パーティクルをイオンシース中にトラップするために,つまり,パーティクルがバルクプラズマ中に侵入するのを抑制するために,『一定以上の電位差を有するイオンシースが発生するような高い高周波電力を印加すること』(相違点2)は容易に想到するものであり,そのことによる作用効果も予測し得るものにすぎない」ということができる」と判断しました。
本判決は、周知技術を踏まえて刊行物の記載を認定し進歩性を否定した一事例として参考になると思われます。


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