原子力損害賠償法によると、原子力損害については、原子力事業者(東電)が賠償責任を負い、その履行を担保するために、責任保険契約の締結、国との補償契約の締結等が義務づけられています。
今回は、東電が賠償不能の部分については、保険による履行は現実的ではなく、また、国の補償契約の上限はわずか1200億円です。そこで、同法16条の「必要な援助」がなされるか、あるいは、立法的解決が必要です。
さて、原子力損害賠償法に基づく東電の賠償責任に関しては、食物の風評被害が「原子力損害」に該当するか否かが問題です。
原子力損害は、同法2条2項に定義されており、その定義は、「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用または核燃料物質等の放射線の作用もしくは毒性的作用(これらを摂取し、または吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすことをいう)により生じた損害」と規定されています。
「により生じた損害」の解釈問題ですが、原因となる事象が、原子力災害というような広い概念ではなく、「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用または核燃料物質等の放射線の作用もしくは毒性的作用(これらを摂取し、または吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすことをいう)」という狭い概念で規定されているので、風評被害は原子力損害に該当しないという解釈もあり得ます。
しかし、風評被害の被害者たる農家の方々の保護が、法の谷間に落ちないようにする必要があります。そもそも、風評被害が生じる原因は、放射線の健康に対する悪影響の可能性にあるのですから、風評被害は原子力損害に該当すると解すべきであり、過去の裁判例もそのように解しています。また、今回の原発事故の場合、収束までに長期間を要すると予想されることから、風評被害が認められる期間も過去の裁判例よりも長くなると思われます。
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