角度調整意匠侵害
平成23年(ワ)第9476号 意匠権侵害差止請求事件
請求認容
本件は意匠権侵害に基づく損害賠償等を求めるものです。
争点は,意匠の類否です。
裁判所の判断は34ページ以下
1 本判決は、まず、要部に関する一般論として、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。 したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意を惹き付ける部分について要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべき」と述べた上、「本件実施品1及び2を用いた角度調整金具では,浮動くさび部材(本件実施品1) の外方側の当接面と弾発部材とが当接することによる当接力,浮動くさび部材の歯部とギアとの噛合及び浮動くさび部材とギアとの間の圧迫力により揺動を抑止するため,ギア部の歯が小さくとも,大きな荷重を受け持つことができ,ギア歯の数を増やすことができるという効果を奏することが認められる。これらのことからすると,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具を使用する需要者ないし取引者は,上記作用効果を奏することに関するギア部分(本件意匠1の基本的構成態様(イ))と当接面(同(ウ))の各構成に注意を惹かれると認めることができる。 また,別紙本件意匠目録1の【使用状態を示す参考図3】から明らかなとおり,本件意匠1は,基本的構成態様(エ)(左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。)及び同(オ)(平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。)の形状により,全体的に扁平な印象を与えるものであると認めることができる。そして,これが意匠全体の美感に及ぼす影響は大きいものであるいうことができるから,これらの形状も需要者ないし取引者の注意を惹き付ける部分であるということができる」と判断しました。なお、本判決は、被告の「具体的構成態様(ウ))も要部である旨の主張に対し,「「正面図」及び「背面図」のみを見れば,需要者の注意を惹き付ける部分であるようにも見える。しかしながら,前記(ア)からすると,当該部分は,角度調整金具の部品として本件実施品1の作用効果を奏する部分であるとは認めることができない上,立体的形状として本件意匠1をみたときにも, 【使用状態を示す参考図3】のとおり意匠全体のうちわずかな部分を占めるにすぎないこと,使用状態では通常目立たない底面部の形状であることからしても,需要者の注意を惹き付ける部分であるとか,全体の美感を左右するものであるということは困難」と結論付けました。
2 本判決は、次に、要部を比較し、「本件意匠1とイ号意匠は,要部において,ほぼ同一の形状を有しており,その違いは極めて僅かである」と述べ、差違点の与える影響について、「全体に占める割合がわずかであり,しかも,要部であるギア歯から外れた端部(底面部)の形状であることからすれば,需要者の注意を惹き付ける部分であるとまではいうことができない」、「イ号意匠は,具体的構成態様(エ)(正面及び背面の各面は,周縁に沿って微小高さの段押しがされている。)の形状を有する点でも,本件意匠1と相違する。しかしながら,文献(甲12ないし15)によれば,焼結機械部品(金属粉末を単軸圧縮成型して作られる部品)において,バリを減らし,工具の寿命を延ばすために,部品の面と側壁が作る隅が鋭角にならないように面取り部(段押し)を設けることは公知の意匠であることが認められる上,上記段押しは極小の大きさのものであることからすれば,需要者の注意を惹き付ける点であるとはいえないし,全体の美感を左右するものであるということもできない」と判断し、「イ号意匠と本件意匠1は,本件意匠1の要部において構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,需要者の注意を惹き付ける点ではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないということができる」と結論付けました。
本判決は、数少ない意匠侵害事件についての判断であり、今後の実務の参考になると思われます。
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