ヒト疾患モデル動物特許侵害
平成21年(ワ)第31535号 損害賠償請求事件
約200万円認容
本件は特許権侵害に基づく損害賠償を求めるものです。
興味深い争点は,前訴の拘束力、サポート要件違反の有無及び進歩性です。
裁判所の判断は42ページ以下
1 本判決は、まず、「前訴審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより, 前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原
告が構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない」とし、「本訴において,前訴における争点と同一の争点である構成要件Bの解釈について前訴と同様の主張をすること及び前訴で主張することができた均等侵害の主張をする点においては,前訴の蒸し返しであり,訴訟上の信義則に反し,許されない」と判断しました。
2 本判決は、次に、一般論して、「特許法旧36条4項1号に定める要件(サポート要件)の適合性の有無は,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載されていることを前提とした上で,発明の詳細な説明の記載及び特許出願時の技術常識に照らし,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かによって判断すべきものと解するのが相当」と述べた上、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先権主張日当時の技術常識に照らし,当業者が,ヌードマウスでの皮下継代を経た脳以外のヒト器官から採取したヒト腫瘍組織塊が同所移植された本件発明のモデル動物がヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有するモデル動物を作成するという本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない」と判断し、「本件発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しないというべきである」と結論付けました。
3 本判決は、さらに、相違点の容易想到性に関し、「①乙14と乙27は,肝癌患者の肝臓から採取した肝腫瘍組織片をヌードマウスの皮下で継代移植して得られた腫瘍組織塊をヌードマウスに移植することによってヒト肝癌を担ったモデル動物を作成する技術に係るものであって,同一の技術分野に属するものであり,その技術分野において,本件出願の優先権主張日当時,転移過程を再現できるヒト肝癌を担ったモデル動物の作成は共通の技術課題とされていたこと,②乙14は,ヌードマウスに肺転移が認められたことに関し,乙27を参照文献として引用していることに照らすならば,乙14及び乙27に接した当業者であれば,乙14記載のヌードマウスに,乙27記載のヒトの肝癌組織片を「原発臓器」であるヌードマウスの「肝臓」に「同所移植」することによって肺転移が生じるヌードマウス(モデル動物)を得られるとの知見を適用する動機付けがある」と判断し、進歩性を否定しました。
4 本判決は、訴訟上の信義則を理由として、前訴の争点に関する主張を許されないとした点、、サポート要件について、「課題が解決できるとの当業者の認識可能性」をメルクマールとしている点、及び技術的分野の同一性だけではなく、課題の同一性をも根拠として動機付けを肯定した点において今後の実務の参考になると思われます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます