知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

省エネ行動シート審取

2013-01-17 12:41:19 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件
2 本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求める事案です。
3 本件の争点は、「発明」該当性です。
4 
4-1 本判決は、「特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在である以上,人の特定の精神活動,意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえない。したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのような技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない」との一般論を展開した上で、本願発明の構成につき,「省エネ行動シート」という図表のレイアウトについて,軸(「第一場所軸」と「第一時間軸」)と,これらの軸によって特定される領域(「第一省エネ行動配置領域」と「第一省エネ行動識別領域」)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ「第一場所軸」,「第一時間軸」,「第一省エネ行動配置領域」及び「第一省エネ行動識別領域」という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能とするものである。 また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない」と述べ、さらに、本願発明の課題と作用効果について、「本件明細書の前記記載によれば,本願発明は,従来技術においては,各省エネ行動によってどれくらいの電力量又は電力量料金を節約できるのかを一見して把握することが難しく,どの省エネ行動を優先的に行うべきかを把握することが難しかったという課題を解決し,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握することが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量を把握することが可能になるという効果を奏するものである。 本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積) を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し, 把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない」と判断しました。

4-2
さらに、本判決は、 原告の「本願発明は,その情報の提示の仕方にこそ技術的特徴があり,当該特徴により,見る者に対して「見やすい,理解しやすい」という効果をもたらすものである」との主張に対し、「本願発明に係る「省エネ行動シート」が情報の提示に当たるとしても,前記のとおり,図表の「軸」及び軸によって特定される「領域」に,「第一場所軸」等の名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利
用するものではないし,人間に提示するための手段として,何らかの技術的な特定
をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴
が存するとはいえない。また,見やすい等の効果も,心理学的な法則を利用するも
ので,自然法則を利用した効果とはいえない」と判断しました。

5 本件は、自然法則の利用といえるか否かについて判断した貴重な例として参考になります。

以上


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