1 平成24年(行ケ)第10196号審決取消請求事件
2 本件は、拒絶査定不服審判不成立審決を取り消すことを求めるものです。
3 本件の主たる争点は容易想到性の有無です。
4 本判決は、「引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なる」と認定する一方、「引用刊行物1には,エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはなく,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはない」と認定した上、「引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではない」と判断し、「引用発明から,相違点2に係る本願発明の構成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである」と結論づけました。
また、本判決は、被告の「引用刊行物1には,伸縮性複合体を製造するのに,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載される旨主張するとともに,吸収性物品の技術分野や多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が周知慣用技術である旨」の主張に対し、「引用発明は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化することを目的(課題)とするものであって,引用刊行物1において,当該発明が,伸縮性複合体の製造方法に関する一般的課題を解決しようとするものであることが記載ないし示唆されているとは認められないから,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前にブロッキング防止処理を適用する動機付けがあるとはいえない」と認定し、「引用刊行物1記載の発明における製造方法に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けが認められない以上,ブロッキング防止処理が周知慣用技術として存在するとしても,引用発明に,当該周知慣用技術を適用して本願発明に想到することが容易であると判断することはできないというべき」と結論づけました。
5 本判決は、単に「周知慣用技術」というだけで容易想到性が肯定されるものではないこと、全ての引用発明が、当該技術分野の一般的解決課題を解決しようとするものとはいえないこと、を示した事例として参考になるものと思われます。
以上
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