職務発明における相当の対価は、「使用者が受けるべき利益」をベースに計算される。この「使用者が受けるべき利益」は、特許の独占権に基づくものであるから、自己実施の場合には、当該特許製品の売上高のうち、独占権に由来するもの(以下「超過売上高」)を計算し、それに当該製品の利益率(東京地判平成16・1・30:判例時報1852号36頁)又は仮想ロイヤリティ率を乗じて計算される(以下「超過利益」)。
また、超過利益を算定する期間については、将来の技術動向等を考慮して、控えめに算定する裁判例が主流である(大阪地判平成17・9・26:判例タイムズ1205号232頁)。
この超過利益の算定方法に関しては、事業化リスクを独立の減額要因として考慮すべきであるとの見解があり(吉田:田村=山本「職務発明」94頁)、その趣旨の裁判例がある(東京地判平成18・12・27)。
そもそも、特許法35条は、使用者と発明者の利益調整のための規定であるところ、相当の対価の算定に際して開発リスクを考慮することは当然である。なぜなら、リスクとリターンを相応させることが公平であり、開発リスクを使用者が負担している点を考慮することにより、使用者と発明者の利益を適切に調整することが可能である上、個人発明家・起業家や発明者以外の従業員と職務発明を行った従業者との公平にも適うからである。
この点、事業化リスクを「使用者の貢献度」の中に読み込む裁判例が多数であるが(知財高裁平成20・5・14:判例タイムズ2025号118頁)、事業化リスクは「発明」に対する貢献ではないから、特許法35条(旧法)の文言解釈として無理がある上、「発明」が事業化されて始めて使用者に「利益」をもたらすことをストレートに解釈論に反映させるためには、「使用者が受けるべき利益」の算定に際して、事業化リスクを読み込むべきである(結論同旨。吉田「職務発明概論ー従業員対価を中心にー」:職務発明の現状と課題20頁)。
この考えをおしすすめると、「使用者が受けるべき利益」の算定に際しては、使用者が事業化のために負担した投資費用等も控除すべきことになる。
なお、「使用者の貢献度」には、発明完成のための設備の提供等が含まれる。また、使用者が発明者に対して支払った賞与等の一部は、「相当対価」に含まれるものであるから、「相当の対価」の請求訴訟においては、既払い分として控除すべきものである。
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