5 改善提案
5-1 提案の内容
大杉先生は、かかる制度分析の後、以下の2つの改善策を提案されている。
① 「第1に、現在の社外監査役が、監査役としての法律上の権限(事実の調査権限=会社法381条、違法行為の差止め権=385条)などを維持しつつ、同時に取締役としての権威・発言権を持てるようにするための法改正である。法制審議会で議論されている「監査・監督委員会」は、このような試みとして高く評価することができる。」
② 「第2に、経営トップへの権力集中を避けるため、人事と報酬、特に役員人事については委員会で決定することとすべきである(オリンパスでは、粉飾に関与した経理部門の人材が社内で出世し、社長や常勤監査役を輩出していた。おそらく、それぞれの時期の経営トップの意向によるものであっただろう)。もっとも、現在の委員会設置会社のように法律で指名委員会や報酬委員会をぎちぎちに縛る必要はない。委員会のメンバー構成や意思決定の方法については各社の工夫に任せても良い。そう考えるならば、会社法ではなく上場規則で、人事(経営トップと取締役・執行役員の人選)の決定を委員会で行うことを義務付けるべきである」。
5-2 コメント
第1の提案、つまり、社外監査役兼社外取締役の導入提案は、監査役の権限拡大によっても実現可能とも思えるが、大杉先生は、監督と監査の相違を前提とした上で、「取締役」であるが故の監督機能を重視されているように思われる({取締役会の監督機能の強化}(上)(下)商事法務1941号17ページ以下、同1942号18ページ以下)。「監査・監督委員会」の構成員である監査・監督委員の要件の一つは、取締役であることであり、その過半数は社外取締役とされているから、大杉先生が、「監査・監督委員会」を高く評価することは理解できる。しかし、「監督」と「監査」が異なる機能を有する以上、それらを同一人物が行うよりも、「監督」する者と「監査」する者は、別人である方が、「監督」、「監査」の実効性がより上がるように思える。
第2の提案については全面的に賛成である。会社内の権力の源泉は、人事権と報酬決定権であり、上場会社において、これを事実上経営トップが握ることには弊害が大きい場合が多いと思われる。他方、人事権と報酬決定権の在り方の最適解は、各社の実情に応じて決まるものであり、大杉先生のご指摘のとおり、会社法で一律に義務づけることは適切ではなく、上場規則によるべきと解される。
6 ハード・ローとソフト・ローの二元論からスマート・ローへ
大杉先生は、上場会社の規制の在り方について 「上場会社への義務付けを考えるときには、法律によるべきか、上場規則によるべきかは大切なポイントである。コーポレート・ガバナンスについては、法律で規制することに様々な問題があり、上場規則による規制になじむ事柄が少なくない」と述べた上で、「もっとも、すべてのルール・メーキングを証券取引所という民間事業者に任せることは難しいので、「上場会社においては、社外取締役が業務執行者を監督する」という基本思想の部分は法律(会社法)で定めることが適切であろう。その上で、証券取引所が上場規則の改正を行う際には、行政庁(たとえば金融庁や経済産業省)がこれをバックアップすることも一案であろう」とされている。
法律というハード・ローと上場規則というソフト・ローには、それぞれ一長一短があり、適切な使い分けが必要であることは銘記すべきである。このようなハード・ローとソフト・ローの組み合わせによるルールは、「スマート・ロー」と呼ぶことができる。
コーポレート・ガバナンスの文脈においては、会社法というハード・ローには基本思想を規定するにとどめ、具体的仕組みは上場規則というソフト・ローに委ねるという大杉先生の見解の方向性は正しいと考える。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます