知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

無鉛はんだ合金事件判決

2015-01-01 10:26:28 | 最新知財裁判例

1 事件番号等

平成17年(行ケ)第10860号

平成19年01月30日

 

2 事案の概要

本件は、無効審判請求不成立審決の取り消しを求めるものです。

 

3 特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりです。

  「【請求項1】Cu0.3~0.7重量%、Ni0.04~0.1重量%、残部Snからなる、金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したことを特徴とする無鉛はんだ合金。

  【請求項2】Sn-Cuの溶解母合金に対してNiを添加した請求項1記載の無鉛はんだ合金。

  【請求項3】Sn-Niの溶解母合金に対してCuを添加した請求項1記載の無鉛はんだ合金。

  【請求項4】請求項1に対して、さらにGe0.001~1重量%を加えた無鉛はんだ合金。」

 

4 審決の内容は、請求人が主張する無効理由は、いずれも認めることができないというものです。

 

5 主たる争点

主たる争点は、

 

6 裁判所の判断

6-1 当業者の認識

本判決は、甲16から18までの文献の記載を引用した上で、「当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は、鉛フリーはんだにおいても、はんだ付けの際に、はんだ付け中にリード線などで通常用いられる母材であるCuの表面からCuが溶出する銅食われ現象が生じ、その結果、銅の濃度が上昇して、SnとCuの不溶解性の金属間化合物が形成され、はんだ浴中に析出したり、ざらざらした泥状となってはんだ浴底に溜まったりして、はんだの流動性を阻害することを認識することができたものと認められる」と認定しました。

 

6-2 本件発明1の「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したこと」の意義

本判決は、本件訂正明細書の記載と当業者の認識を併せ考慮して、「本件発明1の解決課題は、銅食われ現象が生じ、その結果、銅の濃度が上昇して、SnとCuの不溶解性の金属間化合物が形成され、はんだ浴中に析出したり、ざらざらした泥状となってはんだ浴底に溜まったりして、はんだの流動性を阻害することにあるものと認められ」ることから、「本件発明1の「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したこと」の意義は、そのような現象が生じないようにしたことと理解することができる」と判断しました。

 

6-3 対比

以上の判断を踏まえた上で、本判決は、概要、以下のとおり述べました。

(1)本件発明1の解決課題は、「はんだ付け作業中にCu濃度が上昇した場合に、SnとCuの不溶解性の金属間化合物が形成され、はんだ浴中に析出したり、ざらざらした泥状となってはんだ浴底に溜まったりして、はんだの流動性を阻害すること」であって、本件発明1は、その解決課題をNiを添加することによって解決したものであり、そのような意味で、本件発明1は「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」ものである。

 

(2)これに対し、甲1明細書発明においてNiを0.01重量%以上添加するのは、耐電極喰われ性を向上させるためであって、それ以外にNiを添加する理由は甲1明細書には記載されておらず、甲1明細書発明は、本件発明1にいう「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」ものではない。

 

(3)したがって、この点において、本件発明1は甲1明細書発明と同一であるということができないから、本件発明1は甲1明細書発明と、「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」点において同一でないとする審決の判断に誤りはない。

 

(4)以上のとおり、本件発明1は甲1明細書発明と同一の発明ではなく、本件発明1についての特許は特許法29条の2に違反しないとした審決の判断に誤りはないから、取消事由1は理由がない。

 

7 コメント

本判決は、本件発明1の課題の認定に言葉を費やしていますが、その趣旨は、本件発明1にいう「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」という意味を確定するためのものであり、発明の認定としては、極めてオーソドックスなものといえます。本判決は、あくまでも、本件発明1と甲1明細書発明のない表を対比したものであり、その対比に際して課題の相違を検討したものであって、課題の相違を理由として「同一の発明である」という命題を否定したものではありません。

 

以上


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