知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

眼科用処方箋事件判決

2015-01-02 16:55:46 | 最新知財裁判例

1 眼科用処方箋事件判決

知的財産高等裁判所

平成25年(行ケ)第10058号

平成26年07月30日

2 判旨:本件訂正発明1及び2の容易想到性の判断について

(1)甲1には、アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され、また、甲1には、モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果、KW-4679の点眼は、10及び100ng/μlの濃度で、抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと、及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されていることは、前記(1)イ認定のとおりである、そして、前記(3)イ(イ)認定のとおり、本件特許の優先日当時、ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において、ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット、モルモットの動物結膜炎モデルが作製され、点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと、本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理」欄)には、各有効成分がラット、モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや、ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると、甲1に接した当業者は、甲1には、KW-4679が「ヒト」の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの、甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる。

 (2)そして、本件特許の優先日当時、ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において、当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の二つの作用を確認することが一般的に行われていたことは、前記(3)イ(ア)認定のとおりであるから、当業者は、甲1記載のKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し、KW-4679が上記二つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる。

 (3)加えて、前記(2)イ認定のとおり、甲4には、化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)及びその薬理上許容される塩のPCA抑制作用について、「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」るとの記載がある。この記載は、ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの、化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)の薬理作用の一つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)の遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり、その仮説を検証するために、化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる。

 (4)そうすると、甲1及び甲4に接した当業者においては、甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり、KW-4679が、ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに、ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものと認められる。

 3 コメント

判文を見る限り、甲1に接した当業者が甲4に接することが容易であれば、甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり、KW-4679が、ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに、ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものといえそうである。

しかし、問題は、当業者が甲1を主引例として容易に選択できるのか、これができるとしても、甲4を副引例として容易に選択できるのかではなかろうか。本判決は、この点についての説示があれば、より説得的になったように思われる。

 

以上

 

 


コメントを投稿