歯ブラシ審取
平成23年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件
請求棄却
裁判所の判断は17ページ以下。
争点は審判の手続違背と容易想到性です。
本判決は、原告の「補正による請求項1~9のうち,請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2~9について審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である」旨の主張に対し、一般論として、「特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても, 特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである」と述べた上、「複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体について請求不成立としたことに違法はない」と判断しました。
本判決は、次に、容易想到性に関して判断しました。
まず、相違点1に係る審決の判断について、原告の「甲5のCD-ROMや甲6公報には,溶着部分に鍔部を設けた技術が開示されているので,引用発明と組み合わせることは容易でない旨の主張に対し、「溶着部分に鍔部を設けるかどうかと,毛の材料としてポリエステルを採用するかどうかの間に技術的な関連性はない。そして,当業者が,引用発明の方法で歯ブラシを製造しようとする際に,毛の材料として周知のポリエステルを採用し得ることは当然に理解することであるから,引用発明の方法に周知技術3を適用して,歯ブラシの毛をポリエステル樹脂から形成するようにすることは,容易になし得る」と判断しました。
さらに、本判決は、原告の「審決が,甲8公報及び甲9公報(実公昭61-10495号)から,ポリエステル樹脂で形成された毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて毛先をテーパー状に先鋭化させることが周知である(周知技術4)と認定したことについて,上記文献に開示された発明は,毛を折り曲げて植毛することを前提とした発明であり,そこから「毛の先端を針状にする工程」のみを取り出すことは後知恵である」との主張に対し、「甲8公報や甲9公報に記載されるような歯ブラシの製造方法は複数の工程を組み合わせたものであるが,このうち個々の工程を個別に取り出すことができるか否かは,当業者が技術常識に基づいて判断することができるものである。そして,審決が周知とした「先端を針状とする工程」は,テーパー加工された毛を製造するという独立した工程であって,製造された毛を植毛する工程とは技術的に別個の工程であるから,当業者は,これを独立の工程として把握することが可能である。したがって,そのような独立した工程を周知技術として認定したとしても,これをもって後知恵であるということはでき」ないと判断しました。
本判決は、続いて、相違点2に係る審決の判断について、「交換式であるかどうかにかかわらず,一般的に,歯ブラシの製造方法として,保持プレート等の歯ブラシ本体とは別部材に毛を挿入するなどし,その別部材を歯ブラシ本体に固定する方法は周知であったと認められる。他方で,毛が磨り減った場合に歯ブラシ全体を使い捨てることは一般常識であって,歯ブラシ全体の使い捨てを前提として歯ブラシを製造することも当業者に周知であったというべきであるところ,引用刊行物にも,剛毛を保持プレートに設けた孔内に溶着する製造方法のほか,歯ブラシ本体に設けた孔内に溶着する製造方法が開示されており(段落【0001】,【0030】),歯ブラシを交換式とはせずに,全体を使い捨てることについての示唆があったと認められる」と述べた上で、「当業者が,歯ブラシ本体とは別部材を用いる引用発明の歯ブラシの製造方法について,これを交換式に限定することなく,「保持プレートを歯ブラシ本体の切欠内に交換可能に固定する」ことに替えて,接着等の方法により使い捨て歯ブラシの形態とすることは,適宜なし得る事項であった」と判断しました。
本判決においては、相違点2に係る判断について、「毛が磨り減った場合に歯ブラシ全体を使い捨てることは一般常識」を結論を理由づける一つの命題としていることが注目されます。
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