知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

塩化ビニル系樹脂事件判決

2015-05-18 23:30:38 | 最新知財裁判例

1 事件番号
平成26年(行ケ)第10132号
平成27年03月26日

2 主たる争点
主たる争点は進歩性の有無です。

3 判旨:相違点1(本件発明1は、「硬質医療用」と規定しているのに対し、甲1’発明は、「半硬質ポリ塩化ビニル樹脂組成物」であって、「典型的には、パイプ、幾つかのワイヤおよびケーブルコーティング、床タイル、ブラインド、フィルム、血液バッグならびに医療用チューブの製造用」である点)について

3-1 技術常識の適用
従来から硬質塩化ビニル系樹脂によって各種医療用部品が製造されてきていることは本件出願日当時の
技術常識である。そして、甲3及び甲5においては、10~15重量部の範囲の可塑剤を配合する塩化
ビニル樹脂を硬質医療用に用いているのであるから、当業者として甲1’発明を硬質医療用に適用する
ことは容易である。

3-2 課題の記載・示唆
被告らは、この点について、甲1の紫外線安定性に関する記載は、主に屋外の日光に起因する耐紫外線劣化の改善についての記載であって、硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物のγ線滅菌による色調変化という本件発明1の有する課題及び同課題を解決することの顕著な効果については、甲1には記載も示唆もないから、甲1に記載された塩化ビニル系樹脂組成物を硬質医療用に用いることは当業者にとって容易ではない旨主張する。
しかし、放射線滅菌による変色を抑制するという課題に着目するまでもなく、本件出願日当時の技術水準において、甲1の記載事項から本件発明1を推考することが当業者にとって容易であることは、前記アで説示したとおりである。

3-3 阻害要因
被告らは、甲1には、塩化ビニル系樹脂100重量部に対してシクロヘキサンポリカルボン酸エステル可塑剤を10~40重量部含有させて半硬質樹脂とするが、紫外線安定性を向上させるため、可塑剤の添加量を多くし、可塑剤組成物を20~100重量部含有させることが記載されており、本件発明1の可塑剤の含有量1~15重量部とは乖離した方向で紫外線安定性の効果を発揮させているから、紫外線安定性の向上を意図する場合、甲1の塩化ビニル系樹脂組成物を、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤を1~15重量部用いた「硬質医療用」にすることについては阻害要因がある旨主張する。
  しかし、前記2のとおり、甲1に記載された20~100重量部という可塑剤配合量は、特に日光に曝される環境下でのポリ塩化ビニル製材料の長寿命化の観点で記載されたものである。そして、前記3(3)のとおり、塩化ビニル系樹脂の硬度が可塑剤の配合量によって「硬質」、「半硬質」、「軟質」と区分されていることから明らかなように(甲3、25~28)、可塑剤の配合量が塩化ビニル系樹脂組成物の硬度を左右することは本件出願日当時の技術常識であって、当業者であれば、樹脂組成物に求められる紫外線安定性と硬度との兼ね合いで、可塑剤の配合量を適宜調節することは容易であるというべきである。

4 コメント
4-1 技術常識の適用
本判決は、硬質塩化ビニル系樹脂によって各種医療用部品が製造されてきていることが技術常識であることを理由として甲1’発明を硬質医療用に適用することは容易であると判示しているが、技術常識の適用の動機づけが必要との議論もあり得るので、硬質塩化ビニル系樹脂によって各種医療用部品が製造されてきていることが寛容技術であるという方が適切であると思われる。

4-2 課題の記載・示唆
慣用技術の適用については動機づけは不要なので、課題の同一性は要求されないという趣旨の判断と整理できる。

4-3 阻害要因
本判決は、樹脂組成物に求められる紫外線安定性と硬度との兼ね合いで、可塑剤の配合量を適宜調節することは容易であると判示している。これは、技術開発に際し、相反する要請を調整することは当業者が当然試みることであることを前提とする判断であると思われる。

以上
  

 


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