知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

意匠の類否判断

2012-04-09 00:51:53 | 意匠法

意匠の類否判断
1 はじめに
意匠権は、「登録意匠に類似する意匠の実施」にも及ぶものである。しかるに、登録意匠と意匠権侵害と問疑される意匠(以下「対象意匠」ということがある)とが類似であるか否かの判断は、「需要者の視覚を通じて起こさせる美感」に基づいて行う(意匠法24条2項)と規定されている(以下、この判断を「類否判断」)。このように、類否判断は、客観性を確保することが容易ではない「需要者の美感」という概念により決すべきとされていることから、その判断手法・基準の明確化・客観化は、自ずから困難を伴うものである。
また、意匠法が、意匠権者に対し、「登録意匠に類似する意匠の実施」を専有する権利をも付与している趣旨についても、いわゆる創作説と混同説等の争いがあり、議論を一層難しくしている。
本稿は、意匠の類否判断についての議論を裁判例を踏まえて整理し、見通しを多少とも良くすることを目的とする。

2 意匠法23条の規定・趣旨
2-1 登録意匠の実施権専有
同条は、意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する旨を規定する。意匠権者が業として登録意匠を実施する権利を専有するとされる趣旨は、意匠権者にかかる権利を付与することにより意匠の創作を奨励することにあると解される(意匠法は「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励」することを目的とする。意匠法1条)
2-2 類似意匠の実施権専有
これに対し、本条が、意匠権者に対し、「登録意匠に類似する意匠の実施」を専有する権利をも付与している趣旨については、大別して、いわゆる創作説と混同説の争いがある(詳細は寒河江他編著「意匠法コンメンタール」(第二版)397ページ以下を参照)。
(1)学説
創作説は、意匠法の第一義的な目的が創作の保護にあることから、対象製品の意匠と登録意匠との間に相違があり、同一といえない場合であっても、対象物品の意匠の要部と登録意匠の要部とが一致し、対象物品の意匠が登録意匠の美的思想の同一性の範囲内にある場合には、意匠権者に対象物品の実施権を専有させるべきであり、登録意匠と同一ではないが、その美的思想の同一性の範囲内にある意匠を「登録意匠と類似する意匠」と表現したと理解する。これに対し、混同説は、登録意匠と類似する意匠の実施が意匠権侵害とされる理由は、当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合において、取引者、需要者が対象物品の意匠と登録意匠とを類似していると見ることにより、当該意匠に係る物品の混同を生じることになり、意匠権を保護する実質的な意義を喪失することになるからであると理解する。
(2)裁判例 
裁判例を見ると、混同説を採用するものが殆どであり、最高裁も同様と理解されている
(3)検討
確かに、意匠法1条が、意匠法の目的として、「この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」と規定している点に鑑みれば、創作説が意匠法の趣旨に合致するようにも思える。しかし、「登録意匠と類似する意匠」という文言を「美的思想の同一性の範囲内にある意匠」という意味と解釈することは、文言解釈の限界を超えていると思われるし、意匠法24条2項が類似判断を「需要者の視覚を通じて起こさせる美感」に基づいて行うと規定していることから、基本的には混同説が妥当と思われる。また、混同説に立つ方が、美的思想の同一性という制約がないため、結果的に、類似であると判断されるケースが多くなり、意匠の保護に資するものいえよう。もっとも、意匠法が創作法である以上、混同説の発想のみで全てを割り切ることはできず、創作性の有無・程度を考慮に入れて判断するべきであると解する(「修正混同説」:知的財産実務研究会「知的財産訴訟の実務」118ページ参照)以下、この修正混同説を前提として意匠の類否の判断手法について解説する。


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