知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

医薬審取

2012-05-07 06:44:51 | 最新知財裁判例

医薬審取
平成23年(行ケ)第10148号審決取消請求事件
請求棄却
本件は無効審判不成立審決に対して取消をもとめるものです。
争点は,新規性の有無です。
裁判所の判断は12ページ以下
1 本判決は、まず、本件明細書及び引用例等の各文献の記載を検討し、以下の技術常識を認定しました。「①非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)に対して,従前,主に膵β細胞からのインスリン分泌を促進するSU剤であるグリベンクラミドの投与がされてきており,新たなSU剤としてグリメピリドも存在すること,②インスリン受容体の機能を元に戻して末梢のインスリン抵抗性を改善するインスリン感受性増強剤としてピオグリタゾン(臨床治験中)及びトログリタゾン(近く市販予定)が存在すること,③消化酵素を阻害して食後の血糖上昇を抑制するα-グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース,ボグリボース及びミグリトールが存在し,これらには下痢などの消化器症状という副作用があること,④嫌気性解糖促進作用等を有するビグアナイド剤としてフェンホルミン,メトホルミン及びブホルミンが存在すること,⑤SU剤,インスリン感受性増強剤,α-グルコシダーゼ阻害剤及びビグアナイド剤は,以上のようにいずれも血糖値の降下に関する作用機序が異なることについては,本件優先権主張日及び本件出願日に先立つ複数の文献におおむね同じ趣旨の記載があることから, いずれもその当時の糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬に関する当業者の技術常識であったと認めることができる」。
2 本判決は、次に、「作用機序が異なる薬剤を併用する場合,通常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,併用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々に発揮されると考えられる」との一般論を前提として、「引用例3の図3に接した当業者は,本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,当該図3にいう前記「併用」との文言がNIDDM患者に対するピオグリタゾンとグリメピリドとの併用投与という構成を示すものであって, 当該「併用」との書込みのある長方形から1本の矢印が「血糖良好」との書込みのある長円形に向かって伸びていることを,これらの薬剤がそれぞれ有する別個の作用機序により血糖値の降下という作用効果が発現することを示すものであると認識したものと認められる。 さらに,引用例3の図3は,「将来のNIDDM薬物療法のあり方」と題するものであるから,そこに記載のピオグリタゾンは,その薬理学的に許容し得る塩を当然包含するものと解されるとともに,前記「併用」の効果が「血糖良好」と記載されていること及び当該図3に関する引用例3の記載(前記1(3)ウ(エ))から,当該図3に記載されているものは,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬であると優に認められるところである」と判断し、「引用例3の図3には,「ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩と,アカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬」という構成の発明が記載されているものと認められ,当業者は,本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,当該発明について,両者の薬剤の併用投与によるいわゆる相加的効果を有するものと認識する結果,ピオグリタゾン等の単独投与に比べて血糖低下作用が増強され,あるいは少量を使用することを特徴とするものであることも,当然に認識したものと認められるほか,下痢を含む消化器症状という副作用の軽減という作用効果を有することも認識できたものと認められる。したがって,引用例3の図3には,本件発明1等の構成がいずれも記載されており,本件優先権主張日当時の技術常識を参酌すると,その作用効果又は作用効果に関わる構成もいずれも記載されているに等しいというべきであって,これらの発明は,いずれも特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明(特許法29条1項3号)であるというほかない」と結論づけました。
本件は、技術常識を背景として引用発明を認定し、特許庁の新規性ありとの判断を覆したた裁判例として参考になると思われます。


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