知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

圧縮ジャイロ職務発明

2012-06-12 07:52:05 | 最新知財裁判例

圧縮ジャイロ職務発明

平成22年(ワ)第10176号

約200万円認容

本件は職務発明の想到対価をもとめるものです。
争点は,対価の額無です。
裁判所の判断は29ページ以下
1 本判決は、まず、一般論として、「使用者等は職務発明に係る特許権について無償の通常実施権を有するのであるから(特許法35条1項),改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは,当該発明を実施することにより得るべき利益ではなく,これを超えて発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益(独占の利益)をいうと解するのが相当である」とし、「本件のように使用者等が職務発明に係る特許権を自己実施していた場合には,超過売上高(全売上高-通常実施権による売上高)に,第三者に実施許諾した場合の想定実施料率を乗じることによって,独占の利益(超過利益)の額が算出できるから,これから使用者貢献度に相当する額を控除し,発明者間の寄与割合を乗じれば,相当の対価を算定することができる」と述べつつ、「使用者等が受けるべき利益」は,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいい,具体的には,特許権の存続期間の終了までの独占の利益を指すから,当該利益の認定に当たっては,口頭弁論終結時までに生じた使用者等における実際の売上高等の一切の事情を考慮することができるというべきである」と判断しました。
2 本判決は、次に、被告らの「①第三者に実施許諾を求められたことがない,②圧電素子の構造ではなくパッケージ全体が評価される,③2社購買という顧客の希望によって村田製作所の約半分程度のシェアを獲得したにすぎない,④本件各発明において意味があるのは実施形態とでもいうべき部分であるが,他の事業者は別の実施形態を選択することが可能である,⑤本件各特許権の有効期間中に他社が別の技術によって市場に参入している,⑥被告製品の歩留まりは80%程度に留まっており,トータルの生産性の点で,円柱タイプが優位であるという事実はないとして,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない」旨の主張に対し、「超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって, 超過利益の存在を否定することはできない」と判断しました。
3 本判決は、さらに、被告の「被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており, 本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨」の主張に対し、「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである」と述べた上、「被告の提出する損益計算表(乙23) をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる」と判断し。「別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできない」と結論付けました。
4 本判決は,最後に、被告の「登録前に独占の利益は存在しない」,「登録後の2分の1の独占力を認める考えがあり得てもそれは公開後に限られる」旨の主張に対し、 「特許登録前であっても,出願公開後は一定の要件を満たせば補償金を請求することができるから(特許法65条),少なくとも出願公開後においては,事実上の独占力があると認められる」としつつ、「差止請求権や損害賠償請求権は認められないから,その独占力が登録後と比較して小さいといえるのであって,本件発明1及び5の内容,効果等を考慮すると, その登録前の超過売上高の割合は登録後のものの2分の1と認めるのが相当」と判断しました。
4 現行法の解釈においては、結果的に事業が赤字の場合にも相当対価請求権は否定されないと解されますが、この帰結は、現行の職務発明規定の不当性を示すものです。


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