1 事件番号等
平成25年(行ケ)第10297号
平成26年10月29日
2 事案の概要
本件は、拒絶査定不服不成立審決の取消しを求めるものです。
3 特許請求の範囲の記載
【請求項1】
ファンの回転軸の軸方向に直接冷熱素子を設け、前記ファンからの一つの空気流を前記冷熱素子自体で二つの流れに分離し、前記二つの流れは冷気と暖気となり、これらを同時に且つ別々に得ることを特徴とする超小型節電冷暖房装置
4 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、要するに、特表2008-533414号公報(以下「引用例」)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものです。
5 本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりです。
ア 本願発明と引用発明の一致点
「ファンの回転軸の軸方向に冷熱素子を設け、且つ前記ファンからの一つの空気流を前記冷熱素子自体で二つの流れに分離し、前記二つの流れは冷気と暖気となり、これらを同時に且つ別々に得る節電冷暖房装置。」である点。
イ 本願発明と引用発明の相違点
節電冷暖房装置が、本願発明では、超小型であるのに対し、引用発明では、超小型か否か定かでない点。
6 裁判所の判断(容易想到性判断の誤りについて)
本願発明の容易想到性について、本判決は、本願発明と引用発明とは、節電冷暖房装置が、本願発明では、超小型であるのに対し、引用発明では、超小型か否か定かでない点において相違すると認定した上、引用例には、引用発明を「人が身につける他の物品、例えばヘルメット、ベストにも使用することができる」ことが開示されているから、当業者において、引用発明の節電冷暖房装置を、人が携帯することができる程度に小型のものとし、相違点に係る本願発明の構成とすることは容易であると認められる」と判断しました。
そして、本判決は、原告の「引用発明は、ブロワー70からの風を熱電気デバイス80に送風するものであり、ブロワー70が存在しているため、本願発明に示すような、例えば3cm×3cm×4cmという超小型の冷暖房装置を想到し、実現することはできない」旨の主張に対し、本願発明において、「超小型」とは、「節電冷暖房装置の使用者が机上で使用したり、携帯することができる程度に小型」を意味するものと解されること「3cm×3cm×4cm」という程度の大きさのものに限られるものではなく、引用例には、引用発明を「人が身につける他の物品、例えばヘルメット、ベストにも使用することができる」ことが開示するため、ブロワー70を含め引用発明を構成する部材を適宜の大きさのものとすることは、当業者が通常になし得ることであるといえると判断し、原告の主張を排斥しました。
7 コメント
本判決は、引用例において、引用発明が「人が身につける他の物品、例えばヘルメット、ベストにも使用することができる」ことが開示されていることを理由として動機付けを肯定したものといえます。これは、引用例中に、引用発明を「節電冷暖房装置の使用者が机上で使用したり、携帯することができる程度に小型化すること」の示唆が存在することを動機付け肯定の決め手としたものといえます。
また、原告の引用発明において「超小型の冷暖房装置を想到し、実現することはできない」との主張は、ブロワー70の存在を阻害要因と構成するものと整理できますが、本判決は、ブロワー70を含め引用発明を構成する部材を適宜の大きさのものとすることは、当業者が通常になし得ることであるとして、ブロワー70の存在は阻害要因とはならないと判断したものと思われます。「部材を適宜の大きさとする」ことは、いわゆる設計事項に該当すると思われますが、本判決は、阻害要因となり得る事項を克服するために、設計事項的論理を展開している点において目を引くところです。
以上
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