知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

エレベータ審取

2011-12-21 04:04:22 | 最新知財裁判例

エレベータ審取

平成22年(行ケ)第10381号 審決取消請求事件

請求棄却

裁判所の判断は26ページ以下。

争点は容易想到性です。

本判決は、まず、引用発明の誤りについて、「引用例(甲1)において、「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」が「吊ロープ3」の太さの半分より実質的に小さいか否かについては、特段の記載がない。そして、特許出願に係る図面は、設計図面のように具体的な寸法などが正確に描かれるものではないので、審決が、引用例(甲1)の第2図、第4図の記載のみから、引用発明におけるコーティングが「吊ロープ3の太さの半分より実質的に小さい厚さを有する」といった具体的な定量的事項を認定したことは妥当でない」と述べつつも、「上記のような特許出願に係る図面も、技術文献の図面である以上、概略的かつ定性的な事項については大きな誤りはなく記載されているというべきであって、単なる大小関係等については十分に読み取ることができるところ、引用例(甲1)の第2図、第4図からすれば、「高摩擦弾性体」が十分に薄いことが読み取れる。また、引用例(甲1)の「高摩擦弾性体6」は巻上シーブ5の溝にコーティングされるものであって(甲1、2頁)、表面を処理するという「コーティング」の性質上、「吊ロープ3の太さの半分」との大小関係はともかく、十分に薄いものというべきである。そして、前記(1)イのとおり、本願発明における「ロープの太さの半分より実質的に小さい厚さ」を有するとの事項は、コーティングが十分に薄いこと、すなわち薄さの程度を概略的に規定したものにすぎない」と述べて、「審決の認定は、引用発明において「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」が「吊ロープ3」の太さに比べ十分に薄いものであるとする限度において、誤りはな」く、さらに、「審決も、コーティングの綱溝の底部における具体的な厚さ(「最小で約0.5mm、最大で約2mmの厚さ」であること)につき、相違点2として認定し、別途検討している(そして、後記エのとおり、この点に関する審決の判断に誤りはない。)のであるから、審決による引用発明の認定に妥当性を欠く点があるとしても、審決の結論に影響を及ぼすものではない」と判断しました。

本判決は、次に、相違点1に関し、「刊行物1に記載された発明は、本願発明と基本的な構造が全く異なるものではなく、本願発明が排除する構造でもないから、単に「硬度を80度以上とする」部分だけを取り出して周知技術とすることの適否は措くとしても、引用発明に刊行物1の記載事項を適用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、容易想到というべき」と判断しました。

さらに、本判決は、相違点2に関し、「トラクションシーブにおいて、綱溝の底部におけるコーティングの厚さは、綱溝の形状、巻上ロープの太さ、コーティングの耐久性等を踏まえて、当業者が適宜の値に設定すべきことは当然である。そして、前記アのとおり、引用発明において「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」は「吊ロープ3」の太さに比べ十分に薄いものといえ、前記ウのとおり、刊行物1(甲20)の記載事項を適用し、その硬度を80度以上とすることは当業者にとって格別困難なことではない」と述べた上、「本願発明においては、コーティングの厚さがロープの太さよりも十分に薄いことが重要であって、「最大で約2mm」であること自体に特段の意味があるものとは認められない上、所期の機能を果たすためには、厚さに下限を設定することは当然」であり、「引用発明に刊行物1(甲20)の記載事項を適用し、「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」の硬度を80度以上とする場合に、綱溝の底部において最小で約0.5mm、最大で約2mmの厚さとすることは、当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が発明の具体化に際し適宜設定し得る事項ということができ、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、容易想到というべきである」と判断しました。

本判決は、引用文献の図の読み方に関して、「具体的な定量的事項」を認定することは妥当ではないが、「概略的かつ定性的な事項については大きな誤りはなく記載されている」として、「単なる大小関係等については十分に読み取ることができる」と述べている点が参考になりまるとともに、審決による引用発明の認定に妥当性を欠いた場合であっても、審決の結論に影響を及ぼすものではないとして取消理由にならない旨を判示した例としても参考になります。

 

 

 


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