知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

溶融ガラス審取

2013-10-20 13:31:31 | 最新知財裁判例

溶融ガラス審取

知的財産高等裁判所
平成24年(行ケ)第10239号
平成25年03月21日

1 事案の概要
1-1 本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決の取消しを求める事案である。

1-2 特許発明
発明の名称:「溶融ガラスの清澄方法」
特許請求の範囲:
溶融ガラス中の清澄剤により清澄ガスが発生する溶融ガラスの清澄方法において、少なくとも1種の清澄剤が溶融ガラスに添加されること、この溶融ガラスについて上記清澄剤による清澄ガスの最大放出が1600℃を超える温度で生起すること、及び溶融ガラスは1700℃~2800℃の温度に加熱されることを特徴とする溶融ガラスの清澄方法

2 争点
容易想到性の有無

3 裁判所の判断
3-1 本願発明と引用発明との一致点及び相違点
本判決は、本願発明と引用発明との一致点及び相違点について、「本願発明と引用発明とは、「溶融ガラスの清澄方法」である点のほか、「溶融ガラスは1800℃~2000℃の温度に加熱される」ものである点では一致するものの、「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」点で一致するとはいえず、この点で相違するというべきである。また、引用発明が「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」ものではない以上、「この溶融ガラスについて清澄ガスの放出が1800℃~2000℃の温度で生起する」点で一致するということもできず、この点においても相違するというべきである」と認定し、「本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおり認定されるべきものであって、これに反する本件審決の認定は、誤りである。
  (ア) 一致点:溶融ガラスの清澄方法において、溶融ガラスは1800℃~2000℃の温度に加熱される溶融ガラスの清澄方法
  (イ) 相違点:本願発明は、「少なくとも1種の清澄剤が溶融ガラスに添加される」もので、「溶融ガラス中の清澄剤により清澄ガスが発生する」ものであって、「この溶融ガラスについて上記清澄剤による清澄ガスの最大放出が1600℃を超える温度で生起する」ものであるのに対し、引用発明は、かかる事項を有するものではない点(以下「本件相違点」という。)」と判断した。

3-2 相違点に係る判断
本判決は、「引用例2には、従来、基板用のガラスを溶解、清澄する際に砒素又はアンチモンを清澄剤として添加していたが、これらが有害な物質であるという課題を解決するために(前記(1)ウ、エ)、清澄剤としてSb2O3、SO3、Fe2O3及びSnO2のいずれか1つ以上並びにCl及びFのいずれか1つ以上を有効量添加して1500℃ないし1600℃に加熱して溶融し、この溶融ガラスを1200℃ないし1500℃に保持して清澄するという手段を採用し、その際に減圧を利用し、あるいはスクリューで撹拌するという物理的清澄方法を併用すること(前記(1)ア、オ、カ)で、人体及び地球環境を悪化させずに、高品質なガラス基板を製造するという作用効果を有する発明(前記(1)キ)が記載されているといえる」と認定し、本件相違点の容易想到性について、「本願発明と引用発明とは、いずれも溶融ガラスの清澄方法に関するものであり、技術分野が共通するほか、溶融ガラスが1800℃ないし2000℃の温度に加熱される点でも共通する」と述べつつ、「本願発明は、前記1(2)アに説示のとおり、特に高融点ガラス材料に対して公知の清澄剤を添加しても清澄効果が十分ではなく、毒性を有するものを含む清澄剤を多量に添加する必要があったという課題を解決するものであるのに対し、引用発明は、前記2(2)アに説示のとおり、従来のガラス溶融用の炉を裏打ちする耐火物がガラスによって徐々に溶解又は腐蝕するため、溶融及び精製温度が1600℃より低い値に制限されるという課題を解決するものであるから、引用発明は、本願発明を実施する上で前提となる課題を解決するものであるとはいえるものの、本願発明と引用発明とでは、解決すべき課題が同一あるいは重複しているとはいえない」と判断し、さらに、「引用発明における清澄は、前記2(2)ウに説示のとおり、溶融ガラスを1800℃ないし2000℃の温度に加熱することのほか、バッチ内電極等によるホットスポット精製を行う構成を組み合わせてもよいというものであって、これらによるガラスの粘度の低下及び対流の発生に伴い、炉内の溶融ガラスの表面からの気泡の除去が想定されている(物理的清澄方法)と認めることができるものの、それ以外に、例えば溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させることについては、引用例1には何ら記載も示唆もない」ことから、「引用例1には、上記の物理的清澄方法に対して清澄剤を添加して化学的清澄方法により溶融ガラスを清澄することを組み合わせることについては、示唆も動機付けもないというほかない」と判断しました。
本判決は、さらに、「引用例2に記載の発明は、前記(2)に説示のとおり、有害な清澄剤の使用を回避するという点で本願発明と解決課題及び作用効果に重複する部分があり、化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばFe2O3及びSnO2)を添加するものであるほか、減圧又は撹拌という物理的清澄方法を併用するものであるが、溶融ガラスの清澄が行われる温度は、前記(1)カに記載のとおり、1200℃ないし1500℃にとどまる」と認定した上で、「化学的清澄方法が実施される溶融ガラスの温度は、最高でも1620℃であって、それを超える温度とする例は見当たらず、また、それを超える温度で清澄剤を使用することについて示唆するものも見当たらないから、本願発明の1700℃以上の温度や、引用発明が採用する1800℃以上の温度において本願明細書に記載の清澄剤を使用することは、本件優先日当時の当業者にとって公知でも自明でもなく、また、当該使用をすることが動機付けられることもなかったものというべきである」と述べ、さらに、「本願発明は、前記1(2)アに記載のとおり、例えば清澄時間を従来技術の約3時間から約30分に著しく短縮するという作用効果を有するものであるところ、当該温度により清澄時間をこのように著しく短縮できることについては、前掲各証拠には何ら記載も示唆もないから、引用発明を含む従来技術に接した当業者は、本願発明の奏する上記作用効果を予測することができなかったものといえる」と判断し、「引用例1に接した本件優先日当時の当業者は、引用発明に基づいて本件相違点のうち、「少なくとも1種の清澄剤が溶融ガラスに添加され」ることを容易に想到することができなかったものというべきである」と結論付けました。

4 検討
まず、本判決は、「引用発明は、本願発明を実施する上で前提となる課題を解決するものであるとはいえるものの、本願発明と引用発明とでは、解決すべき課題が同一あるいは重複しているとはいえない」と判断していることから、引用発明の主引例適格性を否定したものと解されます。
次に、本判決は、「引用例2に記載の発明」が、「有害な清澄剤の使用を回避するという点で本願発明と解決課題及び作用効果に重複する部分があり、化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばFe2O3及びSnO2)を添加するものであるほか、減圧又は撹拌という物理的清澄方法を併用するものである」ことを認めつつも、「化学的清澄方法が実施される溶融ガラスの温度は、最高でも1620℃であって、それを超える温度とする例は見当たらず、また、それを超える温度で清澄剤を使用することについて示唆するものも見当たらない」ことから、溶融ガラスが1800℃~2000℃の温度に加熱されることを前提とする引用発明に対し、「引用例2に記載の発明」を適用する動機付けがないと判断しました。本判決は、減圧又は撹拌という物理的清澄方法の併用の可否の問題が溶融ガラスの加熱温度に依存していることを重視して、動機付けを否定したものと推測されます。  


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