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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

ニコチン審取

2013-10-21 13:42:10 | 最新知財裁判例

ニコチン審取

知的財産高等裁判所
平成24年(行ケ)第10205号
平成25年02月28日
1 事案の概要
1-1 本件は、原告が本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決の取消しを求める事案である。争点は進歩性の有無である。

1-2 特許発明
発明の名称:「口腔内投与のためのニコチンを含む液体医薬製剤」
特許請求の範囲の記載:
「ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのものであり、そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤」
 
2 裁判所の判断
2-1 一致点と相違点
本判決は、本件審決が行った引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点についての以下の認定について、これを支持した。
  ア 引用発明1:ニコチンを緩衝液中に含有することを特徴とする、純ニコチンを含有するスプレーであることを特徴とする、薬剤
  イ 一致点:ニコチンを含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのものであり、そして緩衝されていることを特徴とする液体医薬製剤
  ウ 相違点1:本願発明では緩衝によりアルカリ性化されているのに対し、引用発明1では単に緩衝されることが明らかにされるのみである点
  エ 相違点2:本願発明ではニコチンがニコチン遊離塩基であるとされるのに対し、引用発明1では単にニコチンとされるのみである点

2-2 容易想到性
本判決は、引用発明1に引用発明2及び3を組み合わせる動機付けについて、「引用例2及び3には、口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる」と認定し、「引用発明1は、使用者の好みに応じて、口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから、口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし、引用例1には、口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない」ことから、「引用発明1に、引用発明2及び3を組み合わせることについて、動機付けを認めることはできない」と判断した上、阻害事由について、「本願優先日当時、鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって、ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では、生理的に悪影響があることが周知であったということができる」と認定し、「引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには、阻害事由が認められる」と判断し、「当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということはできない」と結論付けた。

3 検討
まず、本判決は、「口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできない」ことから、引用発明1に引用発明2及び3を組み合わせる動機付けを否定しましたが、仮に、「口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性」が周知又は自明であることが立証できたのであれば、動機付けは肯定されたものと推測されます。
また、本判決は、「ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では、生理的に悪影響があることが周知であった」ことから、「引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには、阻害事由が認められる」と判断していますが、ニコチンが遊離塩基になることから生じる生理的悪影響に対する対応策が周知又は自明であることが立証できたのであれば、阻害要因は否定されたものと推測されます。
  


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