知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

回転駆動装置審取

2012-03-17 13:34:10 | 最新知財裁判例

回転駆動装置審取
平成23年(行ケ)第10197号 審決取消請求事件
請求棄却
争点は進歩性の有無です。
裁判所の判断は19ページ以下
1 相違点1の判断について
1-1 本判決は、まず、相違点1の判断に関し、「減速機と駆動モータとを備えた回転駆動装置において,駆動モータを減速機の中心部から外れた位置に配置することは,従来周知の技術である」と認定した上、「一般に,駆動モータをどこに配置するかは,スペース等を考慮して当業者が適宜決定し得る設計的事項である」との一般論を前提として、「引用発明において,上記周知技術を考慮しつつ設計変更を行って駆動モータを減速機の中心部から外れるように回転スリーブ(回転体)の外側に配置することは,当業者が容易に設計し得ることである。また,その際に,駆動モータの中空軸の回転軸線を,内歯車と差動外歯車との噛み合い部より半径方向内側に配置することも,当業者が適宜に想到し得る」と判断しました。
1ー2 また、本判決は、原告の「周知例1ないし4に記載された減速機は第一世代の減速機であるのに対して,引用発明は第二世代の減速機という構造上の違いがあり,駆動モータの役割も異なっているから,上記周知技術を引用発明に適用する動機付けが存在しない」との主張に対し、「周知例1ないし4は,減速機と駆動モータとを備えた回転駆動装置において,駆動モータを減速機の中心部から外れた位置に配置するという周知技術を示しているものであり,本件審決も,駆動モータの役割や構造を示したものとして摘示したものではない」し。「引用発明の駆動モータと上記周知技術における駆動モータとは,それぞれの減速機(例えばクランクシャフト及びクランク部) を駆動する動力源である点で共通している」と述べた上、「乙1には,第二世代の減速機について,駆動モータから減速機の動力の伝達に本件補正発明のように入力軸(回転体)を介して行っている技術が示されている。このように,上記周知技術は,減速機の世代に関係しないものであるし,当業者であれば,減速機の世代にかかわらず従来の技術を必要に応じて参照するものであり,そのことを阻害する事情もない」とし、「技術の改良に当たって当該技術分野における周知の事項の適用を試みることは,当業者が通常期待される創作活動の範囲であるから,引用発明において上記周知技術を適用又は考慮することは,当業者が容易に想到し得る」と判断しました。
1-3 さらに、本判決は、原告の「引用発明に,周知例として記載された減速機の相違点1の構造を付加することについては阻害要因があると主張」に対し、「引用発明においては,駆動モータは,駆動モータの中空軸他端部に減速機の回転スリーブの基端部が,クランク軸に装着された外歯車より外側の位置で挿入されて固定されているものであって,減速機内部に組み込まれるものではなく,両者が干渉することはない(第1図)。そうすると,複数のクランク軸及び偏心カムと干渉しないように駆動モータを配置することに,特に技術的困難性は認められない」、「減速機に比べて小型の駆動モータを使用すれば,駆動モータを減速機の中心部から多少外れた位置に配置しても,回転駆動装置の大型化や振動が発生することはない。また,駆動モータから回転体に対して回転力(動力)を伝える歯車に比べて,回転体側の外歯車を大きくすれば減速するから,引用発明に相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することは技術的に可能であって,阻害要因は認めら
れない」などと判断しました。また、本判決は、なお書きとして 「装置を小型化することは一般的な課題であり,そのために装置を構成する部材やその配置を工夫することは,当業者の通常の創作活動であって,減速機と駆動モータとを備えた回転駆動装置において,駆動モータや歯車部材の選定やその配置を工夫して小型化しようとすることも,当業者が通常行う程度の創意工夫である。また,減速機において,減速比や減速効率を高めることは,当業者であれば当然に考慮することである。よって,引用発明に周知技術を適用する際に,上記事情を考慮して適宜変更することも,当業者であれば容易に想到し得る」と述べました。
2 相違点2について
2-1 本判決は、「引用発明は,回転部材である回転スリーブに信号ケーブル等が接触するという課題を有している」一方、「減速機と駆動モータとを備えた回転駆動装置において,駆動モータからの回転を減速機へ伝達する回転部材が筒状の静止部材を外側から囲むように配置し,筒状の静止部材の中にケーブル等を配置するように構成することは,従来周知の技術ということができる」ところ、「上記周知技術においては,ケーブル等の損傷を避けることができるという作用効果を奏することは明らか」と認定した上で、「回転部材である回転スリーブに信号ケーブル等が接触するという課題を考慮して,筒状の静止部材である遮断スリーブと中心部が中空に構成された回転部材である回転スリーブに上記周知技術を適用し,回転スリーブが遮断スリーブを外側から囲むよう配置することは,当業者が容易に想到し得る」と判断しました。
2-2 また、本判決は、原告の「各相違点の相関関係を無視してこれを分断して判断したため,本件審決の認定判断に誤りがある」との主張に対し、「相違点1に係る本件補正発明の「駆動モータが回転体より半径方向外側に配置されている」との構成は,駆動モータの配置に関する技術事項であり,相違点2に係る本件補正発明の「回転体が筒体を外側から囲むよう配置されている」との構成は,回転体あるいは筒体の配置に関する技術事項であるから,両者は技術的に直接的な関連性はなく,それぞれが独立した構成であって,本件審決においてこれらを個別に判断したことに誤りがあるとはいえない」と判断しました。
3 作用効果について
なお、本判決は、本件発明の作用効果について、「駆動モータを配置する位置を回転駆動装置の軸中心に近づければ近づけるほど,径方向に小型化できるとともに,回転駆動装置の重心が軸中心に近づくことから振動しにくくなることは,減速機の構造の違いによって変わるものではなく,当業者にとって技術常識であって,それ自体予測できないような作用・効果ではない」と判断しました。
本判決は、以下の判事事項が、同種事案の処理について参考になると思われます。
①世代を異にする技術に関し、「技術の改良に当たって当該技術分野における周知の事項の適用を試みることは,当業者が通常期待される創作活動の範囲であるから,引用発明において上記周知技術を適用又は考慮することは,当業者が容易に想到し得る」と判示した点
②装置の小型化・効率化が一般的な課題であり、「そのために装置を構成する部材やその配置を工夫することは,当業者の通常の創作活動」であると判示した点
③各相違点の個別判断という手法について、「両者は技術的に直接的な関連性はなく,それぞれが独立した構成であって,本件審決においてこれらを個別に判断したことに誤りがあるとはいえない」と判示した点
④作用効果について、「駆動モータを配置する位置を回転駆動装置の軸中心に近づければ近づけるほど,径方向に小型化できるとともに,回転駆動装置の重心が軸中心に近づくことから振動しにくくなることは,減速機の構造の違いによって変わるものではなく,当業者にとって技術常識であって,それ自体予測できないような作用・効果ではない」と判示した点


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