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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

偏光フィルム審取

2012-03-06 21:52:19 | 最新知財裁判例

偏光フィルム審取

平成22年(行ケ)第10292号 審決取消請求事

請求棄却

本件は無効審判成立審決の取消しを求めた事案です。

争点は容易想到性の有無等です。

裁判所の判断は9ページ以下。

1 本判決は、まず、相違点aに関して、本件発明の解決原理について、原告が本件特許発明の主たる解決すべき課題は,ギラツキに加えて,「モアレ」の解消であることを前提として,審決には,取消事由1ないし4に係る誤りがあると主張することに関して「本件特許発明における画像のギラツキの原因は,粗面化層の凹凸の間隔が画素ピッチより大きいことによる干渉,又は,フィラーの凝集(オレンジピール)である旨が記載されている。他方,モアレの原因については,本件明細書には何ら記載されていない。甲14によれば,モアレとは,「格子,スクリーンや規則的間隔のものなど,一般に類似した周期的パタンの重なりにより生じる干渉で現れる縞状の模様の総称」であることに照らすならば,「ギラツキ」と「モアレ」は,異なる原因によって発生する,異なる現象であると認められる」とし、また,「本件明細書における「ギラツキ」及び「モアレ」の語がどのように使用されているかをみると,「ギラツキ」の語は,「ぎらつく」も含めて,合計15箇所, 単独で使用されている(【0001】,【0003】,【0004】,【0005】, 【0028】,【0030】,【0051】,【0052】,【0054】の【表1】,【0055】,【0056】)。これに対して,「モアレ」の語が単独で用いられている例はなく,わずかに「ギラツキ(モアレ)」が3箇所用いられるにとどまる(【0025】,【0052】)」ところ、「本件明細書における防眩材料の評価をみると,段落【0052】の冒頭に「<画像ギラツキ>」と記載され,評価の対象が,画像ギラツキであることは明らかであり,これに続いて,「ギラツキ(モアレ)がある場合,画面上に光のスジが発生するので,このスジの有無や程度を目視により評価した。ギラツキ(モアレ) が全くない場合を○,ギラツキがあるものを×とした。」と記載されていることに照らすと,「モアレ」をギラツキと別個に評価していると解することはできない」と述べ、さらに、「本件明細書には,「類似した周期的パタン」や「類似した周期的パタンの重なりにより生じる干渉で現れる縞状の模様」については,何らの記載もない」ことから、「本件明細書の段落【0025】,段落【0052】に記載されている「ギラツキ(モアレ)」は,「モアレ」を指すものと理解することはできず, 本件特許発明は,解決課題の目的が「ギラツキ」のみならず「モアレ」であるとはいえず,また,本件特許発明により,「モアレの解消」との課題が解決したと理解することもできない」と判断しました。 

本判決は、次に、特許請求の範囲の記載から、「本件特許発明のフィラーの粒子径Dの粒度分布は,0.5≦D≦6.0μmの範囲のものを60重量%以上含むことを必須の構成とするが,6.0<D≦10.0μm及び10<D≦15.0μmの範囲については,0重量%が排除されていない以上,その含有割合(重量%)は,上限のみを規定したものであり,下限は,何らの規定もされていないと解すべきである」と述べ、「本件特許発明のフィラーの粒子径Dの粒度分布は,上記のとおり,0.5≦D≦ 6.0μmの範囲のものを60重量%以上含むことを必須の構成とし,6.0<D ≦10.0μm及び10<D≦15.0μmの範囲のものは,0重量%を含む任意のものであるところ,甲1発明の架橋アクリル樹脂ビーズ(本件特許発明の「フィラー」に相当)の粒度分布は,粒子径0.5~6.0μmの範囲の粒子を60重量%以上含んでいるから,この点で両発明は一致しているといえる」ことから、「相違点aは,実質的な相違点ではない」として、審決の判断に誤りはないとしました。

2 本判決は、さらに、相違点bに係る判断について、本件特許発明において,相違点bに係る構成(「樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差を0.10以下」との構成)を採用したことの技術的意義について検討し、「0.10なる数値には,臨界的な意義があるとはいえないし,また,フィラーと樹脂マトリックスの屈折率の差を0.10以下とすることに技術的な意義があるとはいえない」とする一方、「3には,耐擦傷性防眩フィルムにおいて,電離放射線硬化型樹脂の屈折率にできるだけ近い屈折率を持つ樹脂ビーズを選択すると, 塗膜の透明性が損なわれずに,しかも,防眩性を増すことができるという技術的事項が記載されている。また,上記認定のとおり,甲5には,防眩フィルムにおいて, 電離放射線硬化樹脂の透明性を損なわないように,電離放射線硬化型樹脂の屈折率に近い微粒子を用いるという技術的事項が記載されている」ことから、「審決が,相違点bに係る本件特許発明の構成について,①本件特許発明の解決すべき課題と甲1発明の解決すべき課題とには差異がない,②防眩材料において,透明性の配慮を行うことは当業者が当然に行う事項であるから,甲1発明と,甲3及び甲5に記載された事項を組み合わせることができるなどとした判断に誤りはない」としました。

本判決は、明細書中に定義がない用語に関して、その意味を確定する一手法を示した事例として参考になると思われます。

 

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