知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大江戸著作権侵害

2012-08-24 08:00:01 | 最新知財裁判例

平成24年7月5日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成23年第13060号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成24年5月7日
1 本件は,原告が,被告に対し,①被告が執筆した「江戸のニューメディア 浮世絵 情報と広告と遊び」と題する単行本(以下「本件単行本」という。)の記述,②被告が執筆した「大江戸浮世絵暮らし」と題する文庫本(以下「本件文庫本」という。)の記述,及び③被告が出演した「NHKウィークエンドセミナー 江戸のニューメディア 浮世絵意外史」と題するテレビ番組(全4回。以下,放送順に「本件番組1」ないし「本件番組4」という。)での発言について, いずれも原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し,又は一般不法行為が成立すると主張して,損害賠償金1000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年11月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。
2 本判決は、著作権侵害を否定した上、一般不法行為の主張について、「著作権法は,著作物の独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め, 独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているが,同法下では,思想又は感情を創作的に表現したものについて,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利が認められる一方,何びとかが,何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を公表した後に,それと同一の事実について同一の見解を表明することは禁止されていない。このような著作権法の規定に鑑みると,ある著作物の中に,先行著作物と何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を共通にする部分があったとしても,創作的な表現としての同一性が認められないのであれば,著作権法が規律の対象とする権利あるいは利益とは異なる法的に保護された利益を違法に侵害するなどの特段の事情がない限り, 不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」との一般論を述べ、本件に関し、「被告著作物部分が,原告記述部分の複製又は翻案に当たらないことは既に述べたとおりである。原告は,被告において,被告著作物部分が原告記述部分に依拠することを示さず,「近世錦繪世相史」(原告著作物)を参考文献として示さなかった点を指摘するが,本件において主張, 立証されたところを見ても,被告著作物と「近世錦繪世相史」(原告著作物) とは,その具体的論述の内容や順序において相当程度に異なっているから, 著作権法上の引用には当たらず,出所を明示すべき場合にも当たらない(著作権法32条1項,48条)。両著作物の間で浮世絵又は錦絵に対する理解ないし位置付けという点で共通する面があることは否定できないが,このような事実関係の下で不法行為の成立を認めることは,結局,著作権法によって禁止されていない歴史的事実及びそれに対する見解の表明をもって違法とするに等しく,採用できない」と判断しました。
3 本判決は、知的財産権関連訴訟における一般不法行為の成立要件について新しい判断を示したものとして実務の参考になるものと思われます。


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