職務発明についてはその承継の対価として「相当の対価」の支払が法律上規定されている。
他方、従業員は労働の対価として会社から賃金の支払を受けているから、労働の成果である職務発明については、雇用契約の解釈上、賃金の支払によって当然に移転するはずである。
この矛盾をどう考えるか。
一つの立場は、産業の発展のためには、発明者を他の従業員に比較して優遇することが必要であるため、賃金とは別に「相当の対価」という特別の請求権を認めたというものである。
これに対して、発明者は、その労働の成果たる発明が会社に貢献するまでに長期間を要することが一般であるため、賃金の支払が十分でないおそれがあることから、特に、「相当の対価」の支払を法定したというものである。
第1の立場に対しては、産業の発展のためには、発明者を他の従業員に比較して優遇することは、他の従業員に対する逆インセンティブになることから、必ずしも企業の利益に適うとはいえないとの批判が妥当する。また、そもそも、金銭のみで「優遇」することが、動機付けのあり方として疑問との批判もある。
これに対して、第2の立場は、一定の合理性を持つものと思われる。そして、この立場に立つ場合には、発明者に対する賃金の支払が十分である場合には、「相当の対価」の支払は不要との見解に至る。
しかし、法が、特段の留保を付けることなく、「相当の対価」の支払を必要としている以上、発明者に対する賃金の支払が十分である場合には、「相当の対価」の支払は不要との見解は採用しがたい。
この点については、発想を転換して、発明者については、賃金の一部が「相当の対価」を構成すると考えることができると思われる。この賃金の一部として支払われた金員が「相当の対価」に不足している場合には、発明者は不足額の請求が可能である。しかし、裁判所は、賃金の妥当性に関する判断と同様に、原則プロセス審査のみを行うべきである。
このように考えると、現在の各社の職務発明規定の多くは、賃金の外枠で「相当の対価」を算定しているため、過大な支払いをしているものがあるはずであり、ほかの従業員との関係から、是正を図ることが求められるというべきである。
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