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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

スロットマシン審取

2013-01-13 16:42:03 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10091号 審決取消請求事件
2 本件は、無効審判請求成立審決に対する取消を求めるものです。
3 本件の主たる争点は、容易想到性の成否です。
4 本判決は、本件発明について、「従来のスロットマシンでは,遊技台をまるごと替えない小規模な新装を行う手段として,前面扉のみを替えるという手段があったところ,液晶表示装置を搭載した最近のスロットマシンでは,かかる手段を用いた新装では,液晶表示装置の表示内容まで一新することは不可能であり,表示内容を一新するには,筐体内に取り付けられた主制御基板をも替えて,液晶表示装置の表示を制御する表示制御回路を替えることが必要になるという課題があった。そこで,本件発明は,この課題を解決するため,表示装置の表示を制御する表示制御回路を前面扉に取り付け,また,主制御回路及び副制御回路は機器を収容する筐体の背面内側に取り付けられた基板に構成し,表示制御回路は,前面扉の背面側であって表示装置とは異なる位置に取り付けられた基板に構成することにより,前面扉を取り替えてその外観に変化をもたらす際に,前面扉とともにこの表示制御回路も新たな回路に取り替えることができ,また,主制御回路及び副制御回路が機器を収容する筐体の背面内側に取り付けられた基板に構成されているため,新装の際に,表示制御回路は新たな回路に取り替えながら,主制御回路及び副制御回路は既存の回路を使うことができるという作用効果を奏するというものである」と認定する一方、引用発明について、「引用発明は,基枠に対し片開き形式の前面枠がヒンジを介して開閉自在に取り付けられ,前面枠に各種電気部品が取り付けられた遊技機において,樹脂を採用した前面枠の強度性と裏側配線処理の簡素化とを同時に満足し得る遊技機の提供を目的とするものであるところ,引用発明においては,①液晶パネル制御基盤の制御により情報表示部へのメッセージ表示が開始される構成, ②液晶パネル制御基盤が,前面枠に取り付けられた液晶テレビ装置の図柄表示パターン等を管理し,情報表示部は,ビッグチャンス時に所定の表示がなされ,他の時に他の表示がなされる構成等が用いられている」と認定した上、「引用発明の「液晶パネル制御基盤」は,「情報表示部」を制御するものであるから,「情報表示部」を制御するための回路が構成されていることは明らかである。 そうすると,引用発明の「液晶パネル制御基盤」は,本件発明において表示装置の表示を制御する「表示制御回路」に相当するものと認められる」とし、「引用発明においては,ビッグチャンス時やボーナスゲーム時であることに基づき, 「情報表示部」に表示される「図柄表示パターン」が選択処理されるものである。 他方,本件発明においても,乱数抽選によって決定された遊技の入賞態様及び遊技状態に基づき,副制御回路によって,表示装置に表示される「画像演出パターン」が選択処理されるものである(【請求項1】)。 そうすると,引用発明の「図柄表示パターン」は,本件発明の「画像演出パターン」に相当するものというべきである」と判断しました。
さらに、本判決は、周知技術を認定した上、「スピーカの出音を制御するとともに,主制御回路からのデータに応じて表示制御回路を制御する副制御回路を,主制御回路及び表示制御回路とは別に設けることは,周知の技術(周知技術1)であるから,引用発明に周知技術1を適用して,マイクロコンピュータが実行しているスピーカの出音の制御及び液晶パネル制御基盤の制御について,マイクロコンピュータ及び液晶パネル制御基盤とは別の副制御回路に担当させることは,当業者が適宜行うことができるものである」と判断し、他方、「引用例2には,入賞態様を決定する「内部当選判定部」(これは,本件発明の「主制御回路」に相当するものである。)及び所定の演出パターンで「演出用ランプ」を制御する「演出動作制御部」(同様に「表示制御回路」に相当するものであう。)とは別に設けられた「演出動作決定部」(同様に「副制御回路」に相当するものである。)により,入賞態様に基づいて前記演出パターンの種類の選択処理を行う点が開示されているところ,当たり役の成立を遊戯者に予告する演出をする際に,当たり役に対して演出の形態が固定されないようにした遊戯機を提供することによって,遊技者の期待感を損なうことのないようにするというのは,スロットマシンの構成において,当業者が一般的に有している課題であるということができるから,引用発明に周知技術1を適用して副制御回路を設けた場合において,引用例2に記載された発明を適用し,当該副制御回路に「図柄表示パターン」を選択する処理を行わせることも,当業者が容易に想到し得るものであるということができる」と判断し、「本件発明の相違点3(スピーカの出音を制御するのが主制御回路に接続された副制御回路である),相違点5(画像演出パターンの種類の選択処理を主制御回路に接続された副制御回路が行う)及び相違点8(表示制御回路が副制御回路に接続されている)に係る構成とすることは,引用発明及び引用例2に記載された発明並びに周知例5ないし7記載の周知技術に基づき,当業者が容易に想到することができたものである」と結論付けました。
さらに、原告の「本件審決が周知技術1を認定する根拠とした周知例5ないし7はいずれもパチンコ機に関する発明であり,スロットマシンとは,機能,構成が相違するものである」旨の主張に対し、「パチンコ機とスロットマシンとは,遊技ゲーム機であるという点で共通するものである。また,周知例5ないし7記載に記載されたパチンコと,引用発明のスロットマシンとは,いずれも表示装置と,当該表示装置の表示制御する制御回路と,ゲーム機全体を制御する制御回路とを有する点でも共通しているから,周知例5ないし7に記載されたパチンコ機の制御技術を引用発明のスロットマシンの制御技術に適用することは,当業者が容易に着想し得ることである」として、原告の主張を排斥しました。
また、本判決は、原告の「相違点9について,異なる手段を異なる位置に取り付けることは周知であり,異なる手段を異なる位置に取り付けることより各手段ごとに交換ができることも自明な効果にすぎないとした本件審決の判断は,根拠とする技術分野や交換するという行為の背景を何ら示しておらず,誤ったものである」旨の主張に対し、「本件発明における「表示制御装置」を構成する「基板」と「表示装置」のように,2つの異なる手段をスロットマシンの機体に取り付けるには,一体的に同じ場所に取り付ける方法と,個別に異なる場所に取り付ける方法とが考えられるところ,これらの方法のどちらを採用するかは,取り付ける空間の状況や, 取扱いの容易性などを考慮して,当業者が適宜に設定し得ることは自明であり,異なる手段を異なる位置に取り付けることより各手段ごとに交換ができるという作用効果を奏することも当業者の技術常識である」として原告の主張を退けました。
5 本判決は、設計事項について、特段証拠を示すことなく、「自明」であると述べた点等が参考になると想われます。
以上


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