記録媒体審取
平成23年(行ケ)第10265号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は被告の特許につき原告の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟です。
争点は,新規性,進歩性の有無です。
裁判所の判断は14ページ以下
1 本件発明1にいう「特定挙動」は交通事故が生じ
る場合の車両の挙動に限られないから,甲第1号証発明1にいう「事故」の場合の
車両の挙動とは形式的には異なるものであり,甲第1号証発明1では「事故」発生
の有無を判定する手掛りとして,主としてエアバッグ作動信号が予定され,本件明
細書中には「特定挙動」に当たる場合としてエアバッグが作動した場合が記載され
ていない点が異なる。しかしながら,甲第1号証の段落【0022】に,エンジン
- 19 -
回転数やブレーキ信号等を「事故信号」として利用することができる旨記載されて
いることからすれば,甲第1号証発明1のデータ収集装置においても,交通事故の
発生を想起させるデータであればこれを「事故信号」として利用し得ることが予定
されているといえ,車両の角速度や加速度等が一定の値(閾値)を超えた場合に「事
故信号」ありとして所要の動作をすることが排除されていない。そうすると,本件
発明1において「特定挙動」を手掛りにして所要の動作を行うことと,甲第1号証
発明1において「事故」の発生を手掛りにして所要の動作を行うこととは,装置な
いし機器の構成上,実質的に相違するものではないということができる。
そして,前記のとおり,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号
証発明1にいう「運航状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客
観的状況を示すデータを主として指すものである。
したがって,相違点1は実質的なものではなく,これが実質的なものであるとし
た審決の判断は誤りである。
本判決は、関係証拠から、「本件発明1の特許請求の範囲にいう「特定挙動」とは,交通事故発生率の高い箇所での車両の挙動を意味」するものであるから、「本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も,交通事故発生率の高い箇所での車両の挙動に関わる情報を意味する」と認定した上、本件発明1にいう「特定挙動」は交通事故が生じる場合の車両の挙動に限られないから,甲第1号証発明1にいう「事故」の場合の車両の挙動とは形式的には異なるものであり,甲第1号証発明1では「事故」発生の有無を判定する手掛りとして,主としてエアバッグ作動信号が予定され,本件明細書中には「特定挙動」に当たる場合としてエアバッグが作動した場合が記載されていない点が異なる。しかしながら,甲第1号証の段落【0022】に,エンジン回転数やブレーキ信号等を「事故信号」として利用することができる旨記載されていることからすれば,甲第1号証発明1のデータ収集装置においても,交通事故発生を想起させるデータであればこれを「事故信号」として利用し得ることが予定されているといえ,車両の角速度や加速度等が一定の値(閾値)を超えた場合に「事故信号」ありとして所要の動作をすることが排除されていない。そうすると,本件発明1において「特定挙動」を手掛りにして所要の動作を行うことと,甲第1号証発明1において「事故」の発生を手掛りにして所要の動作を行うこととは,装置ないし機器の構成上,実質的に相違するものではないということができる。 そして,前記のとおり,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号証発明1にいう「運航状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客観的状況を示すデータを主として指すものである」と延べ、「相違点1は実質的なものではなく,これが実質的なものであるとした審決の判断は誤りであると判断しました。
2 取消事由2(甲第1号証発明1と本件発明1の相違点に係る構成の容易想到
性の判断の誤り)
2-1 甲2との関係
本判決は、まず、「甲第2号証には,加速及び減速の程度を分類するランクを設け,対象となる車両の加速及び減速を各ランクに分類し,各ランクに当たる回数を勘定するとともに,最大の加減速ランクを検出する手段を設けるなどして,車両の加減速の履歴情報(運行車両データ)を収集・記録し,車両の運転状況を把握できるようにしたデータ収集装置の発明が記載されており,うち段落【0002】には,従来の技術に関してではあるが,収集・記録したデータを安全運転を管理するために利用することが記載されているということができる。したがって,甲第2号証には,運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向を把握するために車両の加速度のデータ履歴を利用することが開示されているといえる。また,甲第1号証発明1と甲第2号証に記載された発明は,いずれも車両の挙動等に係るデータを収集・記録するデータ収集装置に関するものであって,技術分野が共通である」としながらも、「甲第2号証に記載された発明は,道路の状況に左右されないで, 運転者の運転状況を把握するのに有効な,車両の運航(運行)データを収集できる装置の提供を技術的課題とするにとどまり(甲2の段落【0006】),運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向一般を把握することを技術的課題とするものではない。また,甲第1号証発明1は従来のタコグラフでは記録(記載)されない車両の運航状態のデータを収集・記録し,交通事故発生時には事故状況を再現するための高頻度(短い周期)での車両の運航状態のデータを収集・記録することを技術的課題とし(甲1の段落【0005】),前記のとおり,高頻度の車両の運航状態のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは甲第1号証中に記載されておらず,また甲第1号証にかかる目的での利用を示唆する記載も見当たらない」と延べ、「本件優先日当時,技術分野が共通であっても,解決すべき技術的課題の相違にかんがみれば,当業者において甲第1号証発明1に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難であるというべきである」と判断しました。
2-2 甲3との関係
本判決は、「甲第3号証には,交通事故等の異常事態の発生を検出するべくエンジン温度等につき閾値を設定し,閾値を超えたときにエンジン温度や加減速等の車両の挙動に関するデータを記録する発明が記載されているということができるが,収集・記録したデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向を把握するために利用することは記載されていない。したがって,甲第1号証発明1に甲第3号証に記載された発明を適用しても,当業者において相違点2に係る構成に想到することは容易ではない」と判断しました。
3 取消事由3(甲第1号証発明2と本件発明2の相違点に係る構成の容易想到
性の判断の誤り)について
本判決は、「本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号証発明1にいう「運行状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客観的状況を示すデータを主として指すもので,相違点1は実質的なものではないから,本件発明2にいう「収集条件」も甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」も,車両の挙動ないし客観的状況を示すデータ(情報)を収集・記録するかについての条件である点において異なるものではない」と述べ、従って、「相違点3 は実質的なものでないか,甲第1号証において,乗務員の車両運航を管理する固定局において「データ収集時における指示」を入力することが予定されており(甲1の段落【0017】),複数ないし多数の車両につき同一の条件で一括して「指示」をすることに繋がりやすいことを考慮しても,当業者において甲第1号証発明2に基づいて容易に解消できる程度のものにすぎない」と判断しつつ、他方、本件発明1においては交通事故の発生が必ずしも前提とされていないが,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,記録媒体のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中で記載されていないところ,かかる事情は本件発明2においても異なるものではない。そうすると, 相違点4,5は実質的なものであり,また本件優先日当時,当業者において,甲第1号証発明2に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難で,甲第3号証に記載された発明を適用しても,相違点4,5に係る構成に想到することは容易でなかったというべきである」と判断し、従って,「相違点3に係る構成は容易想到であるが,相違点4,5に係る構成は容易想到でないから,本件発明2の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない」と結論づけました。
本判決は、想到性を否定して、一部の発明について進歩性を肯定した裁判例として参考になると思われます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます