知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

紙おむつ審取

2012-04-04 19:01:12 | 最新知財裁判例

かみおむつ審取
平成23年(行ケ)第10226号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決について取消しを求めるものです。
争点は、補正の適否と容易推考性の存否です。
裁判所の判断は12ページ以下
1 補正の適否
1-1 本判決は、まず、「このように,本願発明における「配列」との文言は,依然としてそれ自体が特許法2条3項にいう「物」であるのか「方法」であるのかが必ずしも一義的に明らかではないという点が残り,請求項の他の部分の記載のために対象が製品及びしるしを包含する場合としるしのみを包含する場合があるとはいえるものの,製品又はしるしに関する「ならべつらねること。順序よくならべること。また,そのならび。」(乙2。広辞苑第4版)を意味するにとどまり,それ以上の特段の技術的意味を持つものとは認められない」ことを前提として、「これらの発明は,いずれも「販売ディスプレーシステム」を発明の対象としているから,製品の配列のみを想定しており,選択装置すなわちしるしの配列を包含していないことが明らかである」と述べて、「本件補正のうち,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点は,前記イの平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)が「配列」との文言について示した事項について原告による釈明を目的としたものであり(法17条の2第4項4号),併せて,店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる。したがって,本件補正が結果として明瞭でない記載について釈明の目的を達したか否かはしばらく措くとしても,本件補正のうち上記の点は,法17条の2第4項2号及び4号に該当するものというべきであって,少なくとも,上記の点が同条に違反するとの本件審決の判断は,誤りであるというほかない」と判断しました。

1-2 本判決は、これに対し、「本件補正のうち,本願発明の特許請求の範囲の記載から,本願発明の各吸収性物品形体に関する「着用者の発達の第一段階」と「着用者の発達の第二段階」との相違についての「発達の種々の段階」に「対応するように設計さ
れたシャーシを含む」ものであるという限定を削除し,本件補正発明における「第
一」及び「第二」の各吸収性物品形体の相違について,単に「異なる形体を有して
いる」とするにとどめた点についてみると,これは,本願発明における「着用者の
発達の第一段階」と「着用者の発達の第二段階」との相違に関する上記限定を削除
するものであって,本願発明の特許請求の範囲を拡大するものというほかない。
したがって,本件補正のうち上記の点は,特許請求の範囲の減縮を目的とするも
のとはいえず,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものというべきで
ある」と判断しました。

1-3 本判決は、さらに,「法17条の2第4項2号は,同条1項4号に基づく場合において特許請求の範囲についてする補正について,「特許請求の範囲の縮減(第36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものと規定しているところ,これは,審判請求に伴ってする補正について,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等との調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限って認めることとしたものである。そして,同号かっこ書が,補正前の「当該請求項」に記載された発明と補正後の「当該請求項」に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る旨を規定していることも併せ考えると,同号は, 補正前の請求項と補正後の請求項とが,請求項の数の増減はともかく,対応したものとなっていることを前提としているものと解され,構成要件を択一的に記載している補正前の請求項についてその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合あるいはその反対の場合などのように,請求項の数に増減はあっても, 既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正が行われたといえるような事情のない限り,補正によって新たな発明に関する請求項を追加することを許容するものではないというべきである」との一般論を展開した後、「本件補正は,請求項の数を22から56に増加させるものであるところ,例えば,第一の吸収性物品の形体が「臍の緒のくぼみを有している」(本件補正後の請求項2),「第一の吸収性物品の毛布のような感触を提供する特徴を有している」(同3),「第一の吸収性物品を第一の装着者により良く適合させる」(同4),「第一の装着者の自由な動きを可能にする」(同5),「狭い股領域を有している」(同6),「可撓性ファスナーを有している」(同7),「高拡張側部を有している」(同8)又は「第一の吸収性物品の湿り度を示す」(同9)など,いずれも本件補正前の各請求項には全く存在しない構成を付加することで,新たな発明に関する請求項を多数追加しているから,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を行っているといえるような事情が見当たらない」として、「本件補正のうち,以上のとおり請求項2以下に請求項を多数追加している点は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものというべきである 」と判断しました。

2 容易推考性の存否
本判決は、まず、「本願発明と引用発明との一致点は,「発達の種々の段階で着用者に適合するように設計された使い捨て吸収性物品形体の配列」であって,同じく相違点は,「本願発明では,配列が,第一吸収性物品形体であって,着用者の発達の第一段階に対応するように設計されたシャーシを含む第一吸収性物品形体と,第二吸収性物品形体であって,着用者の発達の第二段階に対応するように設計されたシャーシを含む第二吸収性物品形体と,を含み,前記第一吸収性物品形体と第二吸収性物品形体は,構造的に相違によって識別可能であるのに対し,引用発明では,そのようになっていない点」と認められ」ると認定した上、「引用例には, 前記2(2)に記載のとおり,新生児用ないしビッグサイズが存在するベビー用品であるテープ式紙おむつのほかに,これとは構造が異なり,Lサイズ以上しか存在しないベビー用品であるパンツ式紙おむつや,いずれも複数のサイズが存在する介護用品である各種の紙おむつが記載されている」ことを前提として、「しかも,引用例には,前記2(2)ウに記載のとおり,介護用品である紙おむつをサイズの相違及び構造の相違に着目して並べたものを1枚の写真に納めた記載もある。したがって,引用例には,段階を追って発達する者(新生児,乳幼児等)が使用することが想定されているベビー用品である紙おむつについても,同様に,そのサイズの相違及び構造の相違の双方に着目して順序よく配置すること(配列)について示唆がある」と指摘し、さらに、「需要者等がこれらのサイズ及び構造に相違があるベビー用品である紙おむつを選択するに当たり,各サイズ及び構造の双方に着目することは,自明であるから,上記配列に当たり,当該紙おむつを構造的に相違によって識別可能とすることは,当業者にとって周知の技術常識であるにすぎない」と指摘して、「引用例に接した当業者は,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到することができたもの」と判断しました。
本判決は、補正の適否について詳細な述べており、また、引用例に「示唆」があると判断された事例として参考になると思われます。


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