知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

可食容器審取

2013-01-24 06:41:56 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10099号 審決取消請求事件
2 本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求める事案です。
3 本件の争点は進歩性の有無です。

4-1
本判決は、本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤りについて、本件補正発明等を認定の上、「引用発明と本件補正発明とは,いずれも,シート状の乾海苔を熱プレスすることにより成形された可食容器が複数積層された可食容器セットの製造方法であって,シート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造するという同じ技術分野に属するものである」と述べ、「引用発明は,可食容器を1つずつ成形した後に,プランジャーを下降させて,可食容器を取り出し,得られた可食容器を積み重ねることで積層された可食容器セットを製造するというものである」ことを根拠として、「引用例1に接した当業者は,引用発明の効率が悪く,これを改良する余地があることを当然認識するものというべきである」とし、他方,「シート状の素材を効率よく加工するために,これを複数枚重ねて加工を行うことは,本件出願日当時の当業者の技術常識であるといえる」ことを理由として,「引用例1に接した当業者は,引用発明の効率を改善するため,シート状の素材である乾海苔を複数枚重ねて加工を行うことについて動機付けを有するといえる」と判断した上、「引用発明は,シート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造する方法であるところ,容器の形状に成形するために折り曲げると切れが生じるという性質を有する乾海苔を素材とするものである」とし。他方,「シート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造するに当たり,当該容器を保護し,あるいはその保形性を維持するために加圧又は加熱される面(最上面及び最下面を含む。)に紙質材を添付し,かつ,素材の間に紙質材を挿入した積層体を設けた上で加圧又は加熱すること」については、「引用例2,甲4及び5の記載によれば,シート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造するに当たり,当該容器を保護し,あるいはその保形性を維持するために加圧又は加熱される面(最上面及び最下面を含む。)に紙質材を添付し,かつ,素材の間に紙質材を挿入した積層体を設けた上で加圧又は加熱することは,本件出願日当時の当該技術分野における当業者に周知であったものと認められる。なお,シート状の素材を効率よく加工するために,これを複数枚重ねて加工を行うことは,上記周知技術の前提にもなっていることに照らすと,本件出願日当時における上記技術分野の当業者の技術常識であるといえる」ことから、「引用例1に接した当業者は,上記動機付けに従って乾海苔を複数枚重ねて加工を行うに当たり, 容器の素材である乾海苔を保護し,併せてその保形性を維持するため,引用発明に当該周知技術を組み合わせることについても動機付けを有したものといえる」と判断し、「引用例1に接した当業者は,引用発明に前記周知致技術を組み合わせることを容易に想到することができたものと認められる」と結論づけました。

4-2
そして、本判決は、原告の「引用発明が海苔を素材とした可食容器の製造方法であるのに対して,引用例2,甲4及び5に記載の発明が,非可食性の材質からなるものであって技術分野が異なり,両者を組み合わせることが困難であるばかりか,引用発明と引用例2に記載の発明とでは素材の間に挟まれる合紙や仕切紙等の使用目的や作用効果が異なる」との主張に対し、「引用発明と引用例2,甲4及び5に記載の技術とでは,いずれもシート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造する方法である点で共通しており,その素材の形状,加工方法及び使用用途が一致するものであるから,技術分野が同一であるというべきであって,その素材が可食性のものであるか非可食性のものであるかによって技術分野が異なるとはいえないし,当該素材の相違によって,直ちに引用発明を他の発明と組み合わせることが阻害されるものでもない。また,引用例2,甲4及び5に記載の周知技術は,いずれも,シート状の素材からなる容器を保護し,あるいはその保形性を維持することを目的としているところ, 容器の素材が乾海苔であってもこれらの目的が妥当することに変わりはないから, 引用発明とその他の発明とでは素材の間に挟まれる合紙や仕切紙等の使用目的や作用効果が異なるとはいえない」と判断しました。

4-3
さらに、本判決は、「引用例1に接した当業者は,引用発明の効率が悪いことから,その効率を改善するため,シート状の素材である乾海苔を複数枚重ねて加工を行うことについて動機付けを有するところ,引用発明とシート状の素材が積層された食品等を収容する小型容器セットを製造する方法という同一の技術分野に属する引用例2には,シート状の素材を複数枚重ねて加工を行うための成形装置が記載されており,かつ,本件補正発明の相違点1に係る構成が容易に想到することができるものであることから,引用発明に基づき,引用例2の記載を参酌することで,引用発明における熱プレス成形機に代えて引用例2に記載の成形装置の形状を備える熱プレス成形機を採用し,これにより可食容器を成形する工程を実施することとするほか,成形された可食容器セットを取り出す工程に代えて当該熱プレス機から押し出す工程を採用することで,本件補正発明の相違点2に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべき」と判断しました。

5 本判決は、詳細な理由付けにより容易想到性を肯定した事例として参考になります。
以上


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