知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

半導体装置事件判決

2014-12-05 22:16:48 | 最新知財裁判例

1 事件番号等

平成25年(行ケ)第10300号

平成26年11月04日

 

2 事案の概要

本件は、無効審判不成立審決の取消を求めるものです。争点は進歩性の有無です。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1以下のとおりです。

  「【請求項1】

  ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において、上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されており、上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。」

 

3 審決の理由の要旨は、(1) 本件発明1は、「Kiyoshi Tone、 Jian H Zhao、 Maurice Weiner and Menghan Pan、 "4H-SiC junction-barrier Schottky diodes with high forward current densities"、 SEMICONDUCTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY、 (イギリス)、 IOP Publishing、 2001年、 Vol. 16、 No. 7、 p. 594-597」(甲1)記載の発明(以下「甲1記載発明」)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法29条2項により無効とすることはできないというものです。

 

4 一致点及び相違点、

甲1記載発明の内容は以下のとおりです。

「マルチステップ接合終端延長(MJTE)を有する4H-SiC ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードの製造方法であって、n-4H-SiCエピタキシャル層が、n+4H-SiC基板上に設けられたn型4H-SiCエピタキシャルウエハに、Alイオンの注入によって、JBS及びMJTEのp+注入領域を同時に形成する工程と、続いて、注入されたAl原子を、1400℃で熱的に活性化する工程と、続いて、MJTE用の段をエッチングで形成する工程と、続いて、ウエハに、60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程と、続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程と、続いて、Ni層に続いてAl層をスパッタ堆積することで、ショットキーバリア(SB)接触をn-4H-SiCエピタキシャル層表面に形成する工程を備えたことを特徴とする4H-SiC JBSダイオードの製造方法」

本件発明1と甲1記載発明の相違点は以下のとおりです。

ア 相違点1

本件発明1は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるのに対し、甲1記載発明は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるものの、本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に対応する「n+4H-SiC基板」の結晶学的面指数が特定されていない点

イ 相違点2

「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後」に備えている「上記炭化珪素膜表面を酸化する工程、及び酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層に対する処理工程」が、本件発明1は、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」であるのに対し、甲1記載発明は、「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」である点

 

5 裁判所の判断 

5-1 

本判決は、相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて、原告の「同じ対象物に対して同じ処理を行えば同じ結果がもたらされるのは当然のことであり、その目的が開示されているか否かは重要ではないとし、本件発明1と甲1記載発明とでは、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素を除去する」ことで共通する」との主張に対し、「甲1記載発明における「開口」以外の部分の「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態化された酸化膜」は、本件発明1における犠牲酸化のための二酸化珪素層とは、その目的が異なり、その結果、機能も異なると解されるから、原告が主張するように、構成が共通であることのみを理由として両者を共通するものとみることもできない」と判断しました。

 

5-2 

本判決は、さらに、「念のため」として、当業者において、甲1記載発明に基づき本件発明1の相違点2に係る構成を容易に想到し得るかについて検討し、「甲1記載発明における「開口」以外の部分の「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態化された酸化膜」は、パッシベーション膜(表面保護膜)として機能させるために形成されたものであり、残存することが予定されるものである。そうすると、甲1記載発明において、「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」及び「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」を、本件発明1の相違点2に係る構成(二酸化珪素層を除去する工程)とすることには阻害要因があるものというべきである」と判断し、「相違点2の容易想到性に係る審決の判断に誤りはない」と結論付けました。

 

6 コメント

まず、本判決の「甲1記載発明における「開口」以外の部分の「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態化された酸化膜」は、本件発明1における犠牲酸化のための二酸化珪素層とは、その目的が異なり、その結果、機能も異なると解されるから、原告が主張するように、構成が共通であることのみを理由として両者を共通するものとみることもできない」との判断は、目的の相違を理由として、主引例適格性を否定したものと整理することができます。

次に、「念のため」の部分は、相違点克服のための置換が引用発明である甲1記載発明の目的に反することから、阻害要因と判断したものと整理することができます。

 

以上

 


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