「俺が出てくる話を書いてよ」
自称「若かりし頃は松田優作」M氏がたびたび私に言うのです。気安い兄のような人。
「物語を書くにはネタがなくちゃ。ちょっと変わった事件とか」
「事件なァ……。おぅあるある!」
M氏は憂いを帯びた横顔で、クリスマス・イブの思い出話をはじめました。
「何年前やったかな、娘が寝たあと、嫁はんがお札を包んどうねん。サンタのプレゼント買う暇のうて、かわりに現金を娘の枕元に置いとくゆうてな。けど、そらあかんやろ、贈り物やねんから。俺、あわてて家中探してな、台所にあったチキンラーメン、包んでん。ほな次の朝、娘が泣いとうねん。包み紙、びりびりに破いてな、ラーメン、ごみ箱に捨てとうねん。あれは、えらい事件やったヮ」
……サンタクロースって、子どもにラーメンをプレゼントしたりするのかなあ……?
泉下で優作サンも泣いてるョ、なんて笑いつつ、しばし想いを馳せました。
サンタの贈り物を心待ちにしていた、娘さんの大ショック。
子への懸命な愛が空振りしちゃった父ちゃん、M氏の落胆。
捨てられたチキンラーメンだってかわいそう。クリスマスには、チキンがもてはやされたりするのにさ、チキンラーメンは、そっぽを向かれちゃうなんて。
さらにM氏には気の毒ながら、この事件は、童話向きでないように感じました。
とはいえ、創作の力をもってすれば、既存のクリスマス童話とは一味ちがったものができるかな。ものすご~く現実的で、はちゃめちゃだけど、愛にあふれた家族の物語が生まれそう……。
そんなこんなを心のすみであたためていたところ、M氏と天のお達しか、出版社から「明るく愉快な絵童話を」と、嬉しい依頼が舞いこみました。
そして書きあげたのが最新刊『うちゅういちのタコさんた』(国土社)です。タコ焼き屋の父ちゃんと、トラック運転手の母ちゃん、元気な関西生まれの女の子、たまこファミリーの物語。
この物語を書くにつれ、主人公たまこの気持ちに触発されて、自らのおさない記憶が呼び覚まされていきました。
そういえば、私はサンタさんからプレゼントをもらったことがなかったなァ。それでも別段気にとめず、のびのびとすごしていたのはなぜかしら?
もしかして、クリスマスにも動じない、超現実的な家族から……目には見えない贈り物を、受け取っていたのかもしれないな。
■京都新聞 2006年12月5日火曜日 丹波ワイド版 口丹随想掲載