『のちのおもひに』立原道造
夢はいつもかへつて行った 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
ーーそして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた………
夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもい
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであろう
そして それは戸をあけて 寂廖のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
*24歳で夭折。
*「永遠の詩法」の人。