『午後に』
ある日悲哀が私をうたわせ
否定が 私を酔わせたときに
すべてはとおくに 美しい
色あいをして 見えていた
涙が頬に かわかずにあり
頬は痛く ゆがんだままに
私はそれを見ていたのだが
すべては明るくほほえむかのようだった
たとえば沼のほとりに住む小家であった
ざわざわと ざわめき鳴って すぎて行く
時のなかを朽ちてゆく 窓のない小家であった………
しかし 世界は 私を抱擁し
私はいつか 別の涙を流していた
甘い肯定が 私に祈りゆするために
『立原道造詩集』より
*坂本龍一氏の癌からのご回復を深く深く祈念しつつ。