鎌倉徒然草

鎌倉に住んで25年。四季折々の自然を楽しみながら、オリジナルの和雑貨の企画、製造、販売を展開しています。

お母さん

2018年10月27日 | 日記

朝方、激しい雨が降っていた。

お昼近くにはすっかり青空が望めた。

青い空を眺めながら、金沢八景に向かう京急の車中に居た。

私の坐っている座席の手すりに、透明なビニール傘が置かれていた。

車内はすいていて、私の周りに持ち主らしき人は見当たらない。

数人の学生さんが楽しそうに笑い転げていた。

金沢八景に到着するアナウンスが車内に流れ、私は席を立って

階段に最短のドアの隣の車両に歩を進めた。

「お母さん、これえ忘れてません」

笑い声の輪の中にいた青年が、ビニール傘を手にして急ぎ足で近づいてきた。

ドアが開いた。

「これ」青年は何のためらいもなく傘を差し出した。

「あっ、・・・、有難う」

何故か受け取ってしまった。

何でだろう、何で受け取ってしまったのか不思議だった。

でも、すぐに分かった。

青年の「お母さん」の呼びかけが心地よかったからなのだ。

きっと彼から見たら私は「おばあさん」でしょう。

やけに「お母さん」が新鮮に聞こえた。

私はその傘を改札の脇にそっと置いて、駅舎を後にした。

あのビニール傘は「天下の廻りもの」だと聞いたことが。

さて次はだれの手に。



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