『はらぺこカエルののこしもの』
ある町に、一匹のカエルがいました。
カエルはいつも腹ぺこで、食べものを探して、
町じゅうをぴょんぴょん、飛び回っていました。
あるときは、
市場にならぶ魚やハムや、トマトやオレンジをぺろりとたいらげ、
また、あるときは、
子どもたちのおやつを、ぴょんぴょん、ぱくぱくっと、食べてしまいました。
ほっぺたもお腹も、ぱんぱんに膨れ上がるまで食べたら、
「ケロッ」とひと鳴きして大きな口をあけ、
もこもこの黒いかたまりを、ぽんぽーんと吐きだすのです。
「この、いたずらガエルめ!」
町の人びとは、とうとう我慢できずに、
カエルを町から追いだしてしまいました。
町を追いだされたカエルは、
ぴょんぴょんぴょんぴょんっと、
はじめて見る景色の中を歩いていました。
そして、お腹が空いたら、
近くの小麦畑にぴょんぴょんっと飛び込んで、
麦の穂をぱくぱくぱくっ。
木の実のなる木を見つけたら、
ぴょんぴょんっと飛びついて、
甘く熟した木の実をぱくぱくぱくっ。
ぴょんぴょん、ぱくぱくっ。
ぴょんぴょんぴょんっ、ぱくぱくぱくっ。
そうして、何日も旅を続けたカエルは、
ある日、ひとつの町にたどり着きました。
そこは草も木も生えていない、
砂ぼこりだらけの、さみしい町でした。
家の前には、お腹を空かせた子どもや大人が、
たくさんうずくまっていました。
小麦や木の実をたらふく食べて、
ほっぺたもお腹もぱんぱんに膨らんだカエルは、
その人びとの目の前で「ケロッ」とひと鳴きして、
大きな口をあけました。
すると、
木の実のいっぱい詰まったパンが、
ぽんぽんぽんっと道に転がり落ちました。
「ああ、おいしそうなパンが、あんなに!」
うずくまっていた人びとが、立ち上がってパンを拾い、
みんなでひとつずつ食べました。
「ありがとう、ありがとう、カエルさん」
お腹がへこんだカエルは、またお腹が空いたので、
町の中へ、ぴょんぴょんっと歩いていきました。
町の奥へ入っていくと、ぼろぼろに壊れた建物が並ぶ通りで、
怪我をして逃げ惑う人びとの叫び声と、銃の音が鳴り響いていました。
ここは、争いの絶えない町でした。
カエルは食べものを探して、
通りの真ん中にぴょんぴょんと、飛びだしていきました。
そして、
銃や武器をたくさん積んだ車に、ぴょんぴょんっと飛び乗ると、
ぱくぱくぱくっと食べはじめました。
鉄でできた、硬い銃や車を、
カエルはみるみる、たいらげてしまいました。
ぜんぶ食べると、
次は、争っていた相手の銃と車も、
ぴょんぴょんっ、ぱくぱくぱくっと、たいらげてしまいました。
そして、ほっぺたとお腹をぷくうっと膨らませたカエルは、
「ケロッ」とひと鳴きして、大きな口から、大きくて立派な、
鉄の柱でできた家を、ぽんぽんぽんぽーんっと、吐きだしました。
「ああ、これで、安心して眠れる!」
逃げ惑っていた人びとは家族といっしょに、
ひとりの人は誰かの家族といっしょに、
ひとつずつの家に入っていきました。
「こいつめ、俺たちの銃をかえせ!」
武器を奪われて怒った男たちは、
カエルをつかまえて、殺そうとしました。
でも、またお腹が空いたカエルは、
自分をつかまえようとする男たちを、
大きな口でぱくぱくぱくっと、食べてしまいました。
ほっぺたとお腹がぱんぱんに膨らんだカエルが、
「ケロッ」とひと鳴きして、大きな口をあけました。
「オギャーッ!」
カエルの口から、丸裸の赤ん坊が、
食べた男たちの数と同じだけ、飛びだしました。
「ああ、これで争いはなくなる!」
町の人びとは口ぐちに言ってよろこび、
赤ん坊をひとりずつ、家に連れて帰りました。
男たちの悪い心を、たくさん食べたカエルは、
その毒で、死んでしまいました。
町の人びとは悲しみ、カエルを土に埋めてやりました。
すると、その土の中から、
みどり色の葉っぱがのびて、タンポポの花が咲きました。
やがて、タンポポはわた毛になり、
風に乗って、空へ、舞い上がりました。
わた毛は空を飛んで、世界じゅうに散らばり、やがて地面に落ちると、
ちいさなカエルになって、「ケロケロッ」と鳴きました。
ケロケロ、ケロケロ、ケロケロケロッ。
ぴょんぴょん、ぱくぱくぱく、ケロッ、ぽんぽんぽーん。
腹ぺこカエルの分身が、世界じゅうに生まれました。
土にかえった、カエルが生まれ育った、あの町の、
カエルが吐きだした黒い土くれの上にも、
色とりどりの花が、咲き乱れていました。
≪完≫
****************************************
久しぶりの童話です。
投稿用に書き、いくつかの賞に応募し、ちんたらと落選を繰り返していましたが、
今、一人でもたくさんの人に読んで欲しいと思い、ここに載せることにしました。
信じ難い、許せない、悲惨な出来事が起こりました。
平和で穏やかな世の中を望まない人間が、悲しいかな存在している現実。
誰の身にも、いつ降りかかるか分からない、突然命を奪われる危機。
同じ人間に恐怖を抱きながら生きなければならない不幸。
どんなに小さくて、無力でも、平和を願い祈る心を決して失わない。
そんな願いを込めて書いた作品です。