奏~かなでうた~詩

自作詩を書いています。自分の心と向き合いながら。

覚醒

2015-02-11 | 心詩~こころうた・己
ここから何処へ向かう
のたれ死にはしない
くち果てた未来でも
にどと戻れない過去より
はだかの自分を受け入れる

だまって前を見つめる
レールの先には未知の世界
もがき続けた心を解き放ち

ただ 何も信じず 何も疑わず
すくいのないこの世界に
けがされた正義も自尊心も
なにも必要のない世界へ
いざ 扉開かん

【童話】はらぺこカエルののこしもの

2015-02-03 | 創作~ものがたり
『はらぺこカエルののこしもの』


ある町に、一匹のカエルがいました。
カエルはいつも腹ぺこで、食べものを探して、
町じゅうをぴょんぴょん、飛び回っていました。
あるときは、
市場にならぶ魚やハムや、トマトやオレンジをぺろりとたいらげ、
また、あるときは、
子どもたちのおやつを、ぴょんぴょん、ぱくぱくっと、食べてしまいました。
ほっぺたもお腹も、ぱんぱんに膨れ上がるまで食べたら、
「ケロッ」とひと鳴きして大きな口をあけ、
もこもこの黒いかたまりを、ぽんぽーんと吐きだすのです。
「この、いたずらガエルめ!」
町の人びとは、とうとう我慢できずに、
カエルを町から追いだしてしまいました。



町を追いだされたカエルは、
ぴょんぴょんぴょんぴょんっと、
はじめて見る景色の中を歩いていました。
そして、お腹が空いたら、
近くの小麦畑にぴょんぴょんっと飛び込んで、
麦の穂をぱくぱくぱくっ。
木の実のなる木を見つけたら、
ぴょんぴょんっと飛びついて、
甘く熟した木の実をぱくぱくぱくっ。

ぴょんぴょん、ぱくぱくっ。
ぴょんぴょんぴょんっ、ぱくぱくぱくっ。


そうして、何日も旅を続けたカエルは、
ある日、ひとつの町にたどり着きました。
そこは草も木も生えていない、
砂ぼこりだらけの、さみしい町でした。
家の前には、お腹を空かせた子どもや大人が、
たくさんうずくまっていました。
小麦や木の実をたらふく食べて、
ほっぺたもお腹もぱんぱんに膨らんだカエルは、
その人びとの目の前で「ケロッ」とひと鳴きして、
大きな口をあけました。
すると、
木の実のいっぱい詰まったパンが、
ぽんぽんぽんっと道に転がり落ちました。
「ああ、おいしそうなパンが、あんなに!」
うずくまっていた人びとが、立ち上がってパンを拾い、
みんなでひとつずつ食べました。
「ありがとう、ありがとう、カエルさん」
お腹がへこんだカエルは、またお腹が空いたので、
町の中へ、ぴょんぴょんっと歩いていきました。


町の奥へ入っていくと、ぼろぼろに壊れた建物が並ぶ通りで、
怪我をして逃げ惑う人びとの叫び声と、銃の音が鳴り響いていました。

ここは、争いの絶えない町でした。

カエルは食べものを探して、
通りの真ん中にぴょんぴょんと、飛びだしていきました。
そして、
銃や武器をたくさん積んだ車に、ぴょんぴょんっと飛び乗ると、
ぱくぱくぱくっと食べはじめました。
鉄でできた、硬い銃や車を、
カエルはみるみる、たいらげてしまいました。
ぜんぶ食べると、
次は、争っていた相手の銃と車も、
ぴょんぴょんっ、ぱくぱくぱくっと、たいらげてしまいました。
そして、ほっぺたとお腹をぷくうっと膨らませたカエルは、
「ケロッ」とひと鳴きして、大きな口から、大きくて立派な、
鉄の柱でできた家を、ぽんぽんぽんぽーんっと、吐きだしました。
「ああ、これで、安心して眠れる!」
逃げ惑っていた人びとは家族といっしょに、
ひとりの人は誰かの家族といっしょに、
ひとつずつの家に入っていきました。

「こいつめ、俺たちの銃をかえせ!」
武器を奪われて怒った男たちは、
カエルをつかまえて、殺そうとしました。
でも、またお腹が空いたカエルは、
自分をつかまえようとする男たちを、
大きな口でぱくぱくぱくっと、食べてしまいました。
ほっぺたとお腹がぱんぱんに膨らんだカエルが、
「ケロッ」とひと鳴きして、大きな口をあけました。
「オギャーッ!」
カエルの口から、丸裸の赤ん坊が、
食べた男たちの数と同じだけ、飛びだしました。
「ああ、これで争いはなくなる!」
町の人びとは口ぐちに言ってよろこび、
赤ん坊をひとりずつ、家に連れて帰りました。


男たちの悪い心を、たくさん食べたカエルは、
その毒で、死んでしまいました。
町の人びとは悲しみ、カエルを土に埋めてやりました。

すると、その土の中から、
みどり色の葉っぱがのびて、タンポポの花が咲きました。
やがて、タンポポはわた毛になり、
風に乗って、空へ、舞い上がりました。
わた毛は空を飛んで、世界じゅうに散らばり、やがて地面に落ちると、
ちいさなカエルになって、「ケロケロッ」と鳴きました。

ケロケロ、ケロケロ、ケロケロケロッ。
ぴょんぴょん、ぱくぱくぱく、ケロッ、ぽんぽんぽーん。
腹ぺこカエルの分身が、世界じゅうに生まれました。


土にかえった、カエルが生まれ育った、あの町の、
カエルが吐きだした黒い土くれの上にも、
色とりどりの花が、咲き乱れていました。


  ≪完≫







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久しぶりの童話です。
投稿用に書き、いくつかの賞に応募し、ちんたらと落選を繰り返していましたが、
今、一人でもたくさんの人に読んで欲しいと思い、ここに載せることにしました。

信じ難い、許せない、悲惨な出来事が起こりました。
平和で穏やかな世の中を望まない人間が、悲しいかな存在している現実。
誰の身にも、いつ降りかかるか分からない、突然命を奪われる危機。
同じ人間に恐怖を抱きながら生きなければならない不幸。

どんなに小さくて、無力でも、平和を願い祈る心を決して失わない。
そんな願いを込めて書いた作品です。