馬鹿も一心!

表題を変えました。
人生要領良く生きられず、騙されても騙されも
懸命に働いています。

9月の終わり 赤い月。

2012-09-27 22:34:53 | 日記

9月26日(水)23時半 ベランダに出た。

ベランダ越に椰子の木がある。

10年前、このマンションに転居した時は3階あたりが木のテッペンだった。

今は4階のベランダ手すりより高くなった。

秋風が椰子の葉を大きな団扇のごとく煽り

Tシャツ1枚の体に冷たい夜風が通り過ぎる。

漆黒の空を見上げる。

中空に赤い月がポツンとある。

星座は姿を消していた。

じっと見続けた。

 

あいつは「読め」と言って私に文庫本を渡した。

2009年9月 秋風が吹く頃だった。

それから直ぐにがんセンターで食道癌の手術をした。

私も数日遅れで入院した。

9月の終わりに互いに退院して椰子の木の傍らで会った。

あいつは声帯を切除して声を失った。

翌年春に食道癌は肺に転移した。

まもなく夏になろうとする梅雨明けに力尽きた。

享年61歳、独身 両親既に他界。

 

http://blog.goo.ne.jp/kikuchimasaji/m/201006

あいつは本など読まない男だった。

武道一筋、不器用で酒と煙草を生涯の友だった。

赤い月以外何もかも消した漆黒の空を見続けた。

病室で私が用意した真っ白の紙に

「かえさなくて いい」と、黒のマーカーペンで動かぬ動かぬ手を

精一杯使ってミミズのようなひらがなで書いた。

その本は なかにし礼の小説

「赤い月」だった。