9月7日(金)漁港を抜けて高速道路高架下を通ると。
先日の爺さんが座っていた。
手で挨拶すると何か言っているようなので近づいた。
「あんた!どう見ても40代にしか見えねー」
私がからかわれているのか?
歯抜け爺さんが少し認知症なのか?
判断出来ない。
私は問うた。
「ほら、船溜まりには引退した漁師がかたまって
話しているじゃねーか」
「あっちに加わらないんか」?
「あいつら70代だから話が合わない」
82歳の爺さんにとっては70代の若手?爺さんは苦手らしい。
「50年前 魚業権放棄の見返りに5千万円もらった」。
「75坪の土地三つもらった」。
「親方(網元)なんぞ億の金もらった」。
「死んでしまったら金幾ら有っても持って行けねー」
「美空ひばり、石原裕次郎はお金たんまり持っていても
若くして死んじまった」
爺さんは話し続けた。
※ 1969年、工業化を勧める都市近郊の漁港を埋め立てた。
漁民1.232人に総額185億円が支払われた。
競馬場、オートレース場、ソープ、風俗店が賑わい。
ヤクザが進出。
放蕩の末夜逃げする漁民もいた。
現在の金に換算したらすごい?
歯抜け爺さんは32歳で大金手にした。
中国に「順口溜」という文学がある。
http://blog.goo.ne.jp/kikuchimasaji/e/fea253aaf0c3b51fd33c90dd26cb5878
「海で魚獲る人貧乏人、海を売る人金持ち」。
地味に役所が世話してくれたゴミ拾いの仕事をして
年金を28万円もらい 日がな漁港に佇んでいる。
爺さんの装いが派手なので聞いた。
スパイダーマンのTシャツは孫のお古。
ズボンは娘のお古。
サンダルだけが自分のだと言う。
駅前にあるデパートの店員が東京から転勤すると
店内に下駄履きスタイルの無頓着な服装の老人達が
いるので、馬鹿にして横柄な対応してしまう。
しかしこの地域では一番の富裕層なのだ。
そのトラブルが多発したため
地域住民の特性を店員に教育させる。
爺さんは話続ける。
「昔は 魚が一杯獲れた、船に積み切れなかった」。
「今では、ほんの少ししか獲れない」。
「貰った土地も値下がりしてしまった」。
「だがよ~ 血圧が少し高いだけで後はどこも悪くねー」
今日の爺さんの語りはこれで打ち止めにして駅へ急いだ。
歩きながら振り返ると、爺さんはぼんやり私を見ていた。
道すがら中国小説「射英雄伝」の一説を思った。
人生に100歳なし、幼き時は物知らず、年老いては体弱く
ただ残るは青春の数年のみ、名誉と富貴に骨身けずっても、
やがてはみな白髪の老人」