8月26日(月)
駅前不動産会社 営業時間に合わせ、遅めに自宅を出た。
漁港の橋を渡らず、何となく避けているあいつのマンション前の
道路を歩いた。
あいつが住んでいたマンションを見た。
長らく建物が工事用ネットで覆われていた。
昨年7月13日深夜 隣の釣具店から出火
マンションも延焼した。
マンションの壁は黒焦げ、ベランダ鉄柵は
高熱でねじれ溶けた。
2010年6月25日に大学同期だったあいつは食道癌で逝った。
生涯一人身だった住まいは人手に渡ったが
霊魂が室内とベランダ前の船溜まりにいるような気がする。
ネットは外され、壁は白く塗られ
鉄柵も取り替えられていた。
午前の日盛りが白壁を照りつけ
あいつとハゼ釣りした船溜まりの林で
蝉が鳴き始めた。
私は麦帽子を取り、住まいと海面に手を合わせた。
蝉の鳴き声は読経ように聞こえた。