高校の時、引っ越した先の家からは、
卒業までの半年間だけ自転車で駅まで行き帰りしていた。
駐輪場は、駅から少し離れたところにあった。
冬の学校の帰りに、暗くなってから駐輪場まで歩いて行った。
目の前に、OL風の女の人がいてトロトロ歩いて邪魔だった。
駐輪場の入り口に着いてもモサモサしている。
追い抜かす時に近くで見たらキレイなお姉さんだったが、
いかんせん遅すぎる。
フッ、どいてくれよ、ぐらいの目線で一瞥し、
自分の自転車を引っ張り出してまたがり、颯爽と夜の街へこぎ出した。
家に帰るには橋を渡る。
まとめて開発されたわけでもないような町で、歩道がない道も多かった。
橋のたもとまで来た時、向こうから大きなダンプカーが曲がってきた。
避けようとしてダンプの反対側に右足をついたら、そこにはなぜか地面がなかった。
暗いからよく見えなかったが、
個人宅の横の、橋のたもとから川へ降りる古いコンクリート階段らしく、
結果的にはその頂上に自転車を倒したまま、
「うわああぁぁぁ」と叫びながら、
ダダダダダッと階段を勢いよく下までかけ下りてしまった。
ようやく我に返り、なぜ自分は急に川のふちに立ってるのかわからないまま
呆然としていると、
上の方から長い髪の影が見下ろしてきて、
もったりした口調で「大丈夫ですか~ぁ?」
さっきのトロい姉ちゃんだ。
無視するわけにもいかず、助けを求めようにも
よく見たら自分は無事で、さっさとこの階段を上って行けばいいだけだ。
しかし、さっきあれだけ邪魔だとかバカにしておいて、
こんなとこ見られて心配されて、今さらどんな顔して会えばいいのか。
なんてなさけないんだ。
迷った挙句、とりあえずここから無事だけは知らせようと思い、
軽やかに手を上げて落ちついた声で
「やあ!どうも。」 知り合いかよ!!
どうしてあんな川面の暗がりから、キザったらしい挨拶をしてしまったんだろう。
親切なお姉さんは上から無事を確認して去って行ったが、
彼女の中では、自分は夜道で奇声をあげながら
大急ぎでどこかへかけ下りて行った謎の人物だ。
こういうことをたまにふと寝る前に思い出し、恥ずかしさで寝苦しいので、
ここに書いて置いといて、自分からはあまり積極的に思い出さないようにしよう。
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