なぜ、殺したのか。
なぜ、愛したのか。
ひとつの殺人事件。引き裂かれた家族。誰が本当の“悪人”なのか?
製作年度 2010年
映倫 PG12
原作 吉田修一
脚本 吉田修一/李相日
監督 李相日
音楽 久石譲
主題歌 福原美穂 『Your Story』
出演 妻夫木聡/深津絵里/岡田将生/満島ひかり/塩見三省/池内万作/光石研/余貴美子/宮崎美子/永山絢斗/樹木希林/柄本明
朝日新聞夕刊に連載され、毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した吉田修一の話題作を映画化した犯罪ドラマ。
祖父母を面倒見るだけの孤独な日々を送っていた。そんなある日、出会い系サイトで知り合った福岡の保険外交員・石橋佳乃を殺害してしまった祐一。ところが、捜査線上に浮上してきたのは福岡の裕福なイケメン大学生・増尾圭吾だった。苦悩と恐怖を押し隠し、いつもと変わらぬ生活を送る祐一のもとに、一通のメールが届く。それは、かつて出会い系サイトを通じてメールのやり取りをしたことのある佐賀の女性・馬込光代からのものだった。紳士服量販店に勤め、アパートで妹と2人暮らしの彼女もまた、孤独に押しつぶされそうな毎日を送っていた。そして、話し相手を求めて祐一に久々のメールを送った光代。やがて、初めて直接会うことを約束した2人だったが…。
なぜ、、殺したのか?
親も恋人も友達もいない。
一日ほこりにまみれ、シャワーを浴びたら夕飯を食べ、祖父の面倒を見て、寝る。
そんな祐一が、福岡で思わぬ態度に出られたあの時、どう対処したら良かったのか?
なぜ、、、愛したのか?
心躍るなにごともなく、自転車通勤で出会いもなく、恋人のいる妹との侘しい暮らし。
ただ虚しく流れる時を止めたかった。
初めて脱線してみて光代は出会う。彼女を満たすものに―。あの時の決断は彼女を幸せにしたのか。誰かを不幸にしたのか?
昨日まで犯罪とは無縁な孤独に生きるひとが、一線を超える時、そこになにがあったのか?
昨日までささやかに悩み、ささやかに生きていた人が大切なものを失くし、彷徨い、やがて何かに向かって歩き出すまでを、
九州の寂れた田舎町に巻き起こる一つの殺人事件をめぐって波紋を呼ぶ社会の姿を描き、
実は何もつながっていない人々の哀しさを映していく。
国道の延長線にしか自分の人生がなかったという光代は、漁師町に住む祐一を羨み、
祐一にとって心の隠れ場所は車とケイタイ
「
目の前に海があると、もうこれ以上どこにも行けないって思うよ」と返される....
殺された佳乃には同情できないが、彼女のような生き方をしている人もまたいることだろう。
父親といるよりも楽しいはずの友人もまた、彼女と同じニオイを発散していて、繋がりの希薄さが哀れを感じさせる。
それは佳乃が狙いをつけたイケメン大学生・増尾も良く似ている。
邪悪でカラッポで、だからいつも満たされない。そして、それはいつも誰かのせいなのだ―。
一つの事件に絡んだ4人は、その家族も当然世間やマスコミの餌食になっていく。
そして描かれていく事件に群がるその姿は、果たして社会正義によるものといえるのか?
普段は無関心な世間が、ここぞとばかりに体のいいイジメのような構図になってしまう様子にも胸を衝かれ、
大泣きだった「
手紙」を思い出してしまうシーンがあった。
本作では大泣きとか大感動はないけれど、
出会い系サイトでしか新しい出会いのない地方の若者のリアル孤独とか閉塞感。
高齢化していく町に潜む悪の芽とか......今そこにある悪が描かれている。
親である事を捨てて、勝手に生きる大人とか、、、やがてそういう人にも老いは訪れるんだけど―。
そういう現実に即した人間ドラマで、なかなか見応えがあり満足でした。
不思議と鑑賞後になってじわじわと、終盤の樹木希林さんが思い出され、やられました....。
祐一の荒々しいドライビングや横顔、対照的な豪雨の中の光代の帰宅シーンや眼差し。
何気ないショットに登場人物の背景がきっちり描かれ、心に凍みるシーンの数々。
少ないセリフにちゃんと人物像が組み込まれていて、演出・脚本共に素晴しい。
「大切な人はおるね?」
誰もが迷いながらそのひとに出会う為の旅の途中…――祐一の心の旅。
その答えは……是非、ご覧になって下さい。妻夫木くん、素晴しいです!