ロイター
2024年12月10日
(1)『アサド大統領故郷のアラウイ派、シリア反体制派への支持表明』
今回、アサド大統領一派が追放されアサド政権が崩壊しました。
反体制派が主導する新政府が樹立されることも分かります。
しかし、メデイアが報道するのは、ここまでで新政府に参加するのが、どの勢力かは分かりません。
シリア内部で極秘に計画された政変であるため、外部に情報が出てこないためです。
外国からの内政干渉を極力避けるために、そうしているのだろうと思います。
それくらい、今回の新政府樹立に向けた動きは脆いものだと言えます。
戦闘を避けて反政府グループに政権を移行するのは確かに微妙な問題を含んでいます。
旧政府のどこかが反旗を翻せば、再び内戦が起こります。
後で書きますが、シリア西部の地中海沿岸は、ラタキア県です。
ここが旧政府の権力を握っていたアラウイー派(イスラム教シーア派の一派)が多く住む場所です。
反乱が起きるとすれば、ラタキア県を中心に起きることが予想されます。
シリアの宗教人口は、他の宗教を除くとシーア派が10%、スンニ派が90%です。
アサド政権が、恐怖の弾圧支配を行ってきた理由は10%が90%を支配するためです。
この構造が、50年にも及ぶアサド一族の恐怖支配を生み出し、最後はシリア内戦に至った理由です。
イラクのサダム・フセインが、やはり弾圧支配をしていた構造と同じです。
シリアもイラクも政党はバース党です。バース党が分かれて、それぞれが支配政党になりました。
最初は、社会主義政党です。その性質が旧ソ連的な弾圧政治を生み出し、そこに中東式の恐怖政治が加わったのが、旧アサド政権です。
それは脇に置いて、新政府代表団がラタキア県カルダハを訪れ、地域の宗教家や長老らと会談したとのことです。
共同声明に賛同し署名したとのことです。主要な部族が賛同したという意味です。
内容は、色々あると思いますが要は、新政府に協力し従うと言うことです。
戦争は、しないと言う意思表明でもあります。
一応、アラウイー派も新政権に賛成する方向が決まりました。
そして、やっとここに代表団の名前が出てきました。
シャーム解放機構と自由シリア軍です。
トルコ系組織とクルド系組織が参加しているかどうかは、依然として不明です。
しかし、これで新政権に参加するのは・・・
旧イラク政府
シャーム解放機構
自由シリア軍
ラタキア県アラウイー派
大雑把にシリアの西半分は、新政権に参加するようです。
政府を運営するには、官僚機構が必要です。
政府には膨大な文書や情報があります。
これらを平和的・協力的に引き継げるか、引き継げないかはその後に決定的な意味があります。
引き継げなければ、最初からやり直す膨大な手間暇が必要です。
官僚機構の人員を集めて編成するのも同じです。
これらを移行するのに成功すれば、新政府は成功すると思います。
シャーム解放機構は、イドリブ県の地方行政を何年か運営してきました。
行政の運営を知っている経験が、生かされていると思います。
時事通信
2024年12月10日
(2)『シリア、権限委譲で合意 反体制派の「救国政府へ」』
反体制側は、シャーム解放機構のジャウラニ代表を指導者にすることを決めているようです。
シャーム解放機構に自由シリア軍が従うと言うことでしょう。力関係から言って妥当な話です。
旧政府のジャラリ首相と会談し、権限移譲について合意したようです。
これについては、ジャラリ首相が8日からコメントしていますので、予定通りです。
旧政府の中心であったバース党も「国家の統一維持のためにシリアの(新政府)意向を支持する」声明を出しました。
大体は、中央に関しては事前に打ち合わせがあったことだろうと思います。
しかし、中央の合意が成立したからと言って地方が賛同するとは限りません。
今後は、地方の合意を取り付けなければなりません。
その最初の動きが(1)です。
ここまでが、今日のニュースで分かった部分です。
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さて、部族社会です。
シリアもそうですが、イスラム教の国には部族社会の残っている国は、結構あります。
アフガン、パキスタン、シリア、イラク、湾岸諸国、アフリカにもあります。
これらの国では、部族の意思決定が大きな意味を持ちます。
宗教指導者や長老が合議で部族全体の方針を決めます。
部族に所属する者の多くは、その決定に従います。
これを経て大きな地域、そして国の意思が決定されます。
アフガンのカルザイ政権の崩壊と、タリバンの戦争での勝利の過程を見ると良く分かると思います。
次々と政府軍に裏切りが起きて、続々とタリバンに合流が続き、あっと言うに政府軍は兵士がいなくなりました。
主だった部族が全部、タリバン支持に動いた結果です。
シリアは、アフガンよりは近代化された国ですから話し合いで権力の移行が決まりました。
それぞれの勢力が、外国の干渉を受けて内戦を続ける愚を認識したのでしょうね。
良い悪いは、別にして内戦の犠牲者は50万人以上と言われています。
600万人以上の国民が、避難民となって国外で貧しい生活を強いられています。
これを考えると、いつまでも無責任に内戦を続けて良いわけがありません。
しかし、旧アサド政権はアサド一族とアウデイー派の利益と権力の維持装置になり下がっていました。
極端な言い方をすれば、残り90%の国民など生きようと死のうと構わない考えだと思います。
やっとアサド政権がシリアを滅ぼす「ガン」だと多くの人が認識したのだろうと思います。
次にシリアの大雑把な地図を見てみます。
これは、古い地図を見ると地縁血縁が分かります。
<ウイキペデイア>
「アラウイー派」
この項目で検索するとウイキペデイアの記述が出てきます。
アラウイー派は、ある意味シリアの歴史を残している特殊な宗教です。
読んでみると、おもしろいです。
記述の中に「フランス委任時代」の地図があります。
オスマン・トルコ時代の行政区分がこの地図だろうと思います。
日本風に言うなら・・・
アレッポ州、ダマスカス州、アラウイー州、レバノン国・・・・
レバノンは独立しました。
北西部の小さな区画は、トルコ領です。それ以外が、現在のシリア領です。
現在のラタキア県は、当時はアラウイー州(または国)です。
アラウイーは、当時からちょっと毛色の変わった地域であったわけです。
それは、アラウイー派の宗教がイスラム教とも違う特殊な地域的な宗教であったためです。
現在は、シーア派に分類されています。
これがアサド一族の根拠地です。
だから現在のバース党の主要メンバーは、アラウイー派やシーア派が多いのだろうと思います。
旧アサド政権が、過酷な恐怖による弾圧支配を続けてきたのは、10%の少数派が権力を維持するためですし、宗派の違うスンニ派を弾圧して虐殺することに罪の意識が少なかったのであろうと思います。
更には、バース党は社会主義(共産主義)の政党でした。
共産主義的独裁制と弾圧性が、加わって恐怖の残酷なアサド独裁が出来上がったのだろうと思います。
等々多少の資料を読んだだけで、メデイアの報道は、ほんの一部であることが分かります。
そしてシャーム解放機構を、イスラム過激派にしています。
シャーム解放機構の前身は、アルカイダのシリア支部であるヌララ戦線です。
しかし、2016年アルカイダとは絶縁しています。
2017年ヌララ戦線を解散して、他の反政府組織と合流して現在のシャーム解放機構が作られました。
今もイスラム原理主義的な主張は残っています。
しかし、それではシリア国民の支持は得られませんし、他の組織が従うこともありません。
全国組織になるために、かなり主張や政策は変化しています。
シャーム解放機構が、イスラム原理主義なのか、それとも現実的な性質に変化したのかは、今後の新政府の政治を見なければ判断できません。
シリアの平和を願うなら、外国勢力は内政干渉を控えて新政府の政治を見守り、時に少しだけ手助けするのが望ましいと思います。
★AFPBB
2024年12月10日
『シリア反政府勢力、首都郊外で拷問遺体40体発見』
https://www.afpbb.com/articles/-/3553208?cx_part=top_topstory&cx_position=3
BBC
2024年12月9日
『シリア刑務支所から大勢を解放、子供の姿も』
https://www.bbc.com/japanese/articles/clyn720ndg1o