美術の先生は考える

中学美術の授業の実践を中心に、美術について考えたイロイロを紹介できればと思います。

題材まとめ:この場面でこの封筒

2019-10-12 19:48:00 | 日記
昨年度3学期、2学年を対象に実践。

この地区では街なかの学校。赴任した時から、地域との繋がりを考えた学習をさせたいと考えていたが、地域の規模も学校の規模も大き過ぎて、何かと思いついた学習がやりづらい。
よって最近はもう少し大きな範囲で『人』との関わりを美術で学ばせることができないかと考えることが多くなっている。

本題材もその発想から開発。
身近な材料「紙」だけを用い「封筒」のデザインと制作に取り組んでもらうことに。
その際、ただの紙細工の美しさや、カッコいい・かわいいのデザインだけに走ることがないよう、その封筒を使う用途に主眼を置かせるよう計画。
よって題材名が『この場面でこの封筒』に。

使う場面、贈る相手を考え、それに合ったデザインをして実際に制作。場合によっては本当に使うことももちろん可とする。

工程
1 一枚のコピー用紙で紙の造形の可能性を試す
これに似たことは以前もよくやってたので、すんなり準備でき、考えてもらいたいことを、ねらいどおりに考えてもらうことができました。




2 どんな場面が想定されるか発想を広げる
「この場面」の「場面」をまず想定してみる。
これがなかなか難しかった様子。封筒を使いたい状況自体が日常にさほど無いためか。
場面設定が難しい生徒のために、思いつかない場合は「お祝い」か「お礼」に使う封筒、もしくは「学校用」封筒をデザインしてみるよう指定。
3 何でもない市販の茶封筒の鑑賞会
これが面白かった。
単なるその辺にあった茶封筒の鑑賞により、ありふれた日用品の優れた機能性・デザインに気づきます。
口の開き方、紙質、中身の取り出しやすさ(入れやすさ)、のりしろの位置や幅などなど。
ここでの気づきがこの先のデザイン・制作に生きてきます。
4 デザインしてみる
もうこれまで様々な方法で発想を広げたり、まとめたりしてきた子たち。これまで教えてきた発想のツールなどをおさらいした後は、自由に構想をまとめる段階まで進めさせます。
最終的に「制作計画書」は、しっかり書かせますが。

5 制作する
薄手の画用紙、色画用紙、トレーシングペーパー、和紙など、使えそうな「紙」のみを美術室・準備室からかき集めて、このために作った材料ボックスに入れておき、「紙」だけで制作していきます。
資料で置いておいた、紙の加工方法が色々紹介されていた本にヒントを得て、こんなデザインも誕生。
このランドセルは面白いです。
開くとこんな感じにまた手が込んでる。
裏側はこう。
トレーシングペーパーも半透明なので人気。
試しに100円ショップで買ってきて置いておいてみた「水引き用紙紐」が、けっこう人気でした。これは思いつきのお試しなので自腹。
6 まとめる
美術準備室に眠っていた画用紙を使い、こんな風にまとめてもらう。
・どんね「場面」を想定したか?
・デザイン、制作で工夫した点は?
を明記させたが、作品として見たときの仕上がりには派手さがないですね。
定型のワークシートを貼らせたり、見栄えがするように指導に工夫を加えても良かったのでしょうが、授業の本質的ねらいと、与えられた時間内ではこれで十分かと自分では思っている。

実践を終えて。
封筒を使う場面が、そもそも生徒にはあまり日常ではなかったか。序盤の場面設定で苦戦する生徒が多かったので、卒業シーズンに合わせて「ありがとうの気持ちを伝える」とか、用途をある程度限定した方が良かったか。
仕上がった作品のまとめ方・展示までを見越した仕上げ方にもうひと工夫必要。しかしここにあまり時間と手間をかけさせたくない。まだ改良案が見つかってませんが、今後も考えていきたいと思う。