女装子愛好クラブ

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あたし、あなたと、レスビアンしたくなったわ~『血と油と運河』③

2020年11月25日 | 女装小説
大好きな彼(彼女?)と横浜デートが決まって、三星商事秘書課長の木島宏氏はいそいそと準備を始めます。

電話での打ち合わせを済ませ、木島はスーツケースを出すと、洋服ダンスの抽出しの鍵をあけた。
そこには、女装のための小道具が、一揃い以上も納われてある。
自分で買い求めた品もあったし、決死の覚悟で盗んだ物もあった。
〈今日は、なにか起りそうだぞ? きっと愉しい日曜日になることだろう……〉
彼は、そう考えて、ちょっぴり口笛でも吹きたくなった。
(中略)
横浜の港の夜景は、すばらしい。
しかし、それは夜にならなければ、見えないのである。
「ねえ。あなたって、素適よ」
詫摩夏彦は云った。

ホテルの部屋である。
「そう。嬉しいわ」
木島宏は、化粧をしながら、ニコリとして振り返る。
まるで年増芸者のような、凄艶さであった。目が、キラキラ濡れて輝いている。
「あたし、あなたの、そんなところって、大好き!」
 夏子、は云った。

「そんな、ところって?」
「鏡の前で、考え込みながら、化粧している時……」
「だって、服に合わせて、化粧しようと思ってんだもの、仕方ないでしょ」
「それは、そうだけど」
「でも、今日……外出するの、なにか気が進まないわ」
二人は、一緒になると、女言葉である。
そんな言葉遣いをするのが、逆に二人の性感を昂めている感じであった。
「あら、いやねエー」
夏彦は云った。

彼はパンタロン姿である。化粧も手軽だし、男性的だ。
しかし、宏子の方は、そうはゆかなかった。
なにからなにまで、女だ。
化粧、カツラ、下着など、すべて女であったのである。女性に、なり切るのだ。
「化粧……こんなところかしら?」
木島宏は云った。

顔の皮膚は、白く塗られている。
唇は毒々しいまでに、赤い。
付け腿毛は、舞台の踊子みたいに、長くカールしていた。
アイ・シャドウは青く、頬紅はピンク色である。
「とっても、美しくってよ、宏子」
夏子、は云った。

「ほんとう?」
宏子、は訊いている。
「本当よ、あたし、あなたと、レスビアンしたくなったわ」
詫摩夏彦は云っている。


出所『血と油と運河』(梶山季之著)
コメント
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