僕は自転車(1)

2017-11-22 09:06:37 | 童話
僕は自転車、この家の男の子の自転車。
男の子のお父さんの自転車は古いが、僕は新しい。
もう一つ、お父さんのとは違うところが有る。
僕には補助輪が付いている。
男の子は頑張っているが、なかなか補助輪が外せない。

今日も補助輪を外して、お父さんと公園で練習をしている。
『お父さん、手を離さないでね。』
男の子が乗った僕がグラグラ、グラグラ。なかなか上手くならない。
お父さんが『下ばかり見ているからだ、もっと遠くを見ないとダメだよ。』
だけれど男の子は遠くを見ることができない。
『ほらほらっ、前を見て、遠くを見て。』
お父さんの声は聞こえるが、顔が自然に前の車輪の地面を見てしまう。
急に僕がグラグラして転んでしまった。お父さんが手を離したのだ。
男の子は血のにじんだ膝を見ながら泣くのを我慢している。

『少し乗れるようになってきたから、もう少しだよ。』
お父さんが励ましているが、男の子は膝が痛くて仕方がない。
『男だろっ、頑張れ。』
男の子は『僕は男でなくてもいい。』と思った。

そこへ、男の子の友達が自転車でやって来た。
『なんだ、まだ乗れないのかよ。』と言った。
自転車の僕は男の子が乗れるように頑張ることにした。
グラグラしていても、僕が倒れないようにすればいいのだ。

僕は男の子に『一緒に頑張ろうよ、僕も倒れないようにするから。』といって励ました。
『うん、頑張る。』と言って、友達の前で僕を漕ぎ始めた。
僕はグラグラしながらも倒れないように男の子を支えた。
友達は『なんだ、乗れるじゃないか。』
男の子は嬉しそうに『うん、そうだね。』と言って公園の中をぐるぐると、いつまでも僕に乗って走っていた。
だんだん上手くなり、僕はグラグラしなくなった。
お父さんさんが『おぅ、乗れるようになったじゃないか。』と言い、男の子以上に嬉しそうにしていた。