http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2014101802000254.htmlより転載
植木等、反戦の思い熱演 幻の映画35年ぶり上映へ
映画について振り返る降旗康男さん=東京都千代田区で |
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喜劇映画の無責任シリーズやヒット曲「スーダラ節」で知られる俳優で歌手の故植木等さんが主演した反戦映画「本日ただいま誕生」が、三十三年ぶりに見つかった。監督は網走番外地シリーズや「鉄道員(ぽっぽや)」などで知られる降旗(ふるはた)康男さん(80)。二十五日、東京国際映画祭で特別上映される。
映画では、僧侶を目指して修行中の男が徴兵され、シベリア抑留中に凍傷で両足を切断。帰国後、社会が混乱する中で自らを再発見する。原作は禅僧の故小沢道雄さんの自伝で、植木さんが映画化を熱望。一九七九年に公開されたが、宣伝費をまかなえず、数週間で打ち切られた。
フィルムは二年前、植木さんが所属した芸能事務所の倉庫で見つかり、BS放送の「日本映画専門チャンネル」を運営する日本映画衛星放送(東京)などが、ハイビジョン化した。
喜劇俳優やコメディアンとして親しまれた植木さんが、俳優として転機を迎えた異色作。降旗さんはテレビドラマの制作を通じて植木さんを知っており、監督を引き受けたという。
寺の息子に生まれた植木さんには修行経験があり、空襲で東京の自宅を焼かれた経験もある。降旗さんは植木さんの八歳下で、少年時代にやはり戦争を体験。植木さんが作品に情熱を傾けた理由を「俳優として『俺は(スーダラ節の)スーダララッタだけじゃない』という思いがあったんじゃないかな」と推し量る。
降旗さんによると、資金不足で撮影が止まり、千葉県内のロケ地でホテル代を踏み倒したこともあった。スタッフが悩んでいるとホテルから連絡があり、「植木さんからごあいさつを頂いた。お金は後でいい」と激励された。降旗さんは「俳優としても人間としてもがっちり作品にぶつかる人だった」と懐かしむ。
映画に銃撃戦や戦場は出てこないが、歩けない主人公が旧満州(中国東北部)の平原に置き去りにされる場面が一つのヤマ。降旗さんは「敵を撃ち殺し銃剣を突きつけるだけでなく、生き残るために隣人も見捨てなければならないのが戦争。いかにあのしんどい時代を生きたかが自然に伝われば」と、いま上映する意義を語る。
「本日ただいま誕生」は二十五日午前十時五十分から、TOHOシネマズ日本橋で上映。チケット、問い合わせは東京国際映画祭インフォメーションセンター=電0570(006)506=へ。