http://digital.asahi.com/articles/DA3S11422336.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11422336より転載
(検証 集団的自衛権)行使要件、政府内の攻防再び
2014年10月26日05時00分
集団的自衛権はどういう時に使えるのか。外務省と内閣法制局が、国会を舞台に再び牽制(けんせい)し合っている。安倍内閣は7月1日、集団的自衛権の行使を認めるよう憲法の解釈を変える閣議決定を行った。その過程では激しい攻防が繰り広げられた。いま、「日米同盟が揺らぐこと」が行使を認める「武力行使の新3要件」に当たるのか、という論点を皮切りに攻防の第2幕が始まった。▼3面=案練った5人組
10月16日の参院外交防衛委員会。民主党の小西洋之氏が、内閣法制局の横畠裕介長官に聞いた。
《小西氏》 日米同盟が揺らぐ事態が起きるだけでは新3要件を満たさない。国民の生命等が根底から覆される危機が発生しなければ武力行使はできない。
《横畠氏》 単に日米同盟が揺らぐ恐れがあることが、直ちに(新3要件に)当たるとは考えられない。
小西氏は、横畠氏の答弁を引き出すと、岸田文雄外相に同じ質問をぶつけた。岸田氏が「法制局長官のお答えした通り」と答えると、小西氏は「これまでの外相の答弁を根底から覆すものだ」とたたみかけた。
「日米同盟の揺らぎ」が論点になるのには伏線があった。閣議決定から2週間後の7月14日、国会閉会中に開かれた衆院予算委員会でのやりとりだった。
《岸田氏》 日米同盟は日本の平和と安定を維持するうえで死活的に重要だ。米国への攻撃は新3要件に該当する可能性は高い。
《岡田克也氏》(民主) 日米同盟が危なくなる場合は常に(集団的自衛権を)行使できる。新3要件の言葉は、何の限定もないことに等しい。
外務省が作った答弁要領を読む岸田氏に、内閣法制局は危機感を抱いた。
閣議決定では、他国に対する攻撃でも、国民の権利などを「根底から覆される明白な危険」があれば、集団的自衛権を行使できるようにした。野党からは、その表現が「あいまいだ」と批判を受けている。ところが、岸田氏のこの発言は「日米同盟が揺らぐ」という、さらにあいまいな事態でも新3要件に当てはまる恐れがあるものだった。
この対策として、横畠氏は10月上旬、法制局内に自らの考えを示した。岸田氏の答弁にある「日米同盟が死活的に重要だ」という表現について、「米国との信頼関係を傷つける事態は新3要件に該当することになってしまい、行使の範囲が広くなりすぎる」と指摘。「日米同盟が重要なのは、米軍が攻撃を受ければ、米軍が日本を守る機能が果たせなくなるからだ」と強調した。
米国との信頼関係が揺らいだとしても、日本の存立が脅かされない限り、新3要件には当たらないとの立場だ。横畠氏は自らの答弁の機会に備えていた。
内閣法制局と外務省は、閣議決定の際、必要最小限の武力行使を認める「限定容認論」の範囲をめぐって対立。外務省は、自衛隊の国際貢献で日本の国際的地位を高めると同時に、日米同盟が揺らがないよう集団的自衛権の行使の要件を緩めて解釈したいのが本音だ。一方の法制局は「憲法解釈では集団的自衛権は使えない」と訴えてきた。行使の範囲を最小限度にし、これまでの見解との整合性を保ちたい思いがある。
(蔵前勝久、杉崎慎弥)
■「同盟揺らぐ」 定義あいまい
「日米同盟が揺らぐ」とはどういう状況が想定されるのか。
安倍晋三首相は今年3月の国会答弁で、弾道ミサイルを警戒中の米国のイージス艦が攻撃された際、日本の自衛艦が防護する事例を挙げ、「いま、集団的自衛権の行使ではできないと言われている。できなければ、日米同盟の関係が毀損(きそん)されるのは間違いない」と発言。日米同盟を揺るがさないため、集団的自衛権の行使容認が必要だと訴えた。
裏返せば、日米同盟の揺らぎ自体が、「武力行使」の新3要件に当てはまり、集団的自衛権を行使できるという理屈になる。
集団的自衛権の行使が容認された今、仮に米国が始める戦争への参加を要請された場合、要請を断ると日米同盟が揺らぐ恐れがあるため参戦するべきだ、と受け取られる恐れがある。
「日米同盟が揺らぐ」という状況の定義にあいまいさが残っているだけに、集団的自衛権の行使の範囲も歯止めなく拡大する可能性がある。
<集団的自衛権> 自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、実力をもって阻止する権利。歴代内閣は「我が国は国際法上、集団的自衛権を有しているが、行使は憲法上許されない」という憲法9条の解釈を踏襲してきた。