http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40829より転載
官々愕々 女性活用に本気でない安倍政権
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安倍政権が目玉とする「女性活躍」。その言葉の裏には、二つの隠された目的がある。
第一に、安倍政権最大のテーマである集団的自衛権などのタカ派的政策から国民の目をそらすという目的だ。女性の活躍という議題なら、誰もが議論に参加できる。
第二の目的は、集団的自衛権に対して拒否反応を示し、7月の閣議決定後に大きく下がった女性の支持率を回復することである。
とりあえず、5閣僚と1役員(自民党政調会長)の6人の女性を登用したところまではうまく行き、支持率はかなり戻った。
しかし、その先がうまく行かない。最大の問題は、家計の財布を預かる主婦たちの生活実感だ。日経新聞の既婚女性アンケートでは、現在の景気が「良い」と答えた人がわずか2%、「悪い」が49%だった。しかも、実に全体の92%が節約すると回答した。節約対象の上位三つは、「衣服」「外食」「ケーキなど菓子」。安倍政権が女性の楽しみを奪っているという結果だ。
女性の支持率上昇のためには、こうした「不幸な実感」を逆転するほどの「幸福への期待」の提示が必要。そこで注目されるのが、「女性活躍推進法案」だ。
この法案では、従業員301人以上の大企業に独自の女性登用の数値目標を公表するよう義務付ける。しかし、中小企業には義務はないし、大企業の目標も、数字さえ入っていれば何でも良いという。結局、経団連に気を遣って骨抜きの法律になりそうだ。
女性が活躍するためには、こんなお飾りの目標よりはるかに重要なことがある。3月8日号の本コラムで取り上げたことだが、男性の働き方を根本から変えることだ。
日本の男子正社員は、会社に従属し、夜遅くまで働き、休みもろくに取れない。この非人間性は、先進国では類を見ない。男性同様に活躍したい女性は、競争上、男と同じ働き方を強いられる。それでは子どもを生み育てるのは難しい。優れた女性の才能を埋もれさせ、少子化も進み、経済にも大きなマイナスだ。
政府もようやく重い腰を上げたが、塩崎恭久厚生労働相がやったのは、経済団体に「労働慣行を変え、定時退社や年次有給休暇の取得促進等の取り組みを望む」とする「要請書」を渡しただけ。経団連に気を遣ったのだろうが、そんなアリバイ作りの言葉だけでは何も変わらない。
今、必要なのは、もっと実効性のある具体的政策である。
まずはサービス残業の徹底取り締まりだ。今は事実上野放し状態だが、違反者には本来あるべき厳罰(禁固刑)を科して厳しく取り締まるべきだ。
次に、似非管理職制や裁量労働制の乱用対策として規制強化を行う。例えば、これらを認める条件として、年収で1000万円以上という規制をかける。
第三に、有給休暇の強制取得または買い取りを義務付けたり、残業の割増率を2倍程度高める。これらは雇用増加にもつながる。
第四に、残業実態や有休取得実績の開示の義務付けも必要だ。会社に入るまで実態がわからず、入ってびっくりというのはおかしい。もちろん、不当表示は厳罰とする。
第五に、本格的な同一労働同一賃金規制を導入する。
第六に、企業の年金や健康保険の対象になっていない一部の非正規雇用の労働者全てに原則これらの権利を与える。
もちろん、経団連は抵抗するだろう。しかし、それと戦うのが本当に強い首相だ。いつも勇ましい発言ばかりしている安倍首相だが、腰抜けと言われたくなかったら、一度くらい庶民のために戦ってみたらどうか。
『週刊現代』2014年11月1日号より